BACKCOUNTRY RESEARCH

【第3回】パキスタン/チャラクサ氷河クライミングツアーレポート

MSRアンバサダーで登山ガイド/アルパインクライマーの佐藤裕介さんが2022年にパキスタンのチャラクサ氷河で行ったクライミングツアーのレポート第3回です。

メンバーの紹介

・ルー君(田中暁):
ヌボーとした顔で常にヤル気があるか無いのか良くわからないがクライミングセンスは抜群だ。筆者同様沢登りも好きだが、沢を目的に行ったレユニオン島へ着いて初日の「乾杯!」と同時にぎっくり腰になった程の「ガラスの腰」を持つ。実はチョーお喋り。

・坂もっちゃん(坂本健二):
坊主にメガネ。どこにでもいそうな学生に見えてしまう彼もいつの間にか40 歳だが相変わらず脱ぐと凄い。風呂場で彼にあったクライマーは尊敬の眼差しでその身体を見つめることになるはずだ。少なく見積もっても5.14 は登れそうなボディを持つ。口癖は「腹へったなぁ」。いまだに学生的な食欲を維持している。

・ゆーすけ(佐藤裕介):
割りとオールラウンドに登山を続けてきたが、パタゴニアで大事故を起こし負傷。3年ぶりの海外クライミングとなる。
 負傷とは関係ないが物忘れが酷く「周りが気を付けてくれないと困る」とメンバーに伝えるほど。常に監視が必要なリーダー。ヤル気だけはある。

Nayser Brakk(5200m) British Route

DAY7:7月27日

BC(14:00)- ナイサブラックABC(18:30)  晴れ、夜から雨

 順応登山から1日のレストを挟み、ナイサブラックへのトライに出かけた。チャラクサ氷河のK7 BC からは少し下流側に三角錐状のカッコいい山容が見える。これがナイサブラックだ。ここに来る度にいつか登りたいなと思わせる目立った存在であった(佐藤は偵察で訪れた時も含めると3回目のチャラクサ氷河である)。標高は5200mと高くないしBC から右奥に見えているスカイライン(British Route)なら登攀距離も短く順応がてら登れそうにも思えた。2019 年信州大学学士会パ-ティーも完登している課題である。

ナイサブラック目指して氷河を下る。昼間の増水時は渡渉になった。

 真昼間の行動は暑すぎるだろうと少し遅めに出発した。BC から良く見えているルンゼから取り付きのコルに行けば距離は短いが、傾斜のあるルンゼ内での落石等が怖い。ルンゼ内に残っている雪も気になったので、回り込んで反対側からアプローチした。思った以上に時間がかかり夕暮れ間近にコル手前の水の出ている場所に到達。ここをテン場と決める。明日のアプローチを確実にするため2人はコルまで偵察、佐藤はテン場の整地をすることにした。真っ暗になってから2人が帰ってくる。整地も概ね済み快適なビバーク地となった。夜半から全く予想外の雨音で目を覚ます。予報も当てにならないなあ。

DAY8:7月28日

ナイサブラックABC(09:00)-BC(11:00) 雨

 雨は朝になってもやまず、どうしようもないので下山する。天気が回復し次第戻ってくるつもりでテントやクライミングギアの大半をデポした。

DAY9:7月29日

BC(04:30)- コル取付(9:10)- ピーク(13:30)- 取付(15:30)-BC(18:20)  曇り時々晴れのち雷&雨

Nayser Brakk 撮影: 長門敬明

 3時起床。と言うか思いっ切り寝坊して2人に起こされるが、パッとしない天気だ。坂もっちゃん=「雨パラついてますけど。。。行きます?」と言う。昨夜から断続的に降っていた雨は止んでいたが厚い雲が空を覆い、いつ降ってもおかしく無かった。ゆーすけ=「まあ、チャンスがあるなら行ってみよう。ダメなら帰ってくればいいだけだから」

 寝坊したくせにいつものポジティブ発言で出発を決めた。日本でのトレーニング時からリーダーのイケイケのマインドを知っているので「いつもの事だから、そうくると思った」と若干渋々なメンバーだったがスタートする。詰め上がる谷の先にはガスが立ち込めて登攀日和とは程遠く皆気が重かったが、取り付きに着くころには晴れ間も見えてきて一気に元気になった。

Nayser Brakk クライミングの詳細

1P 目5.10(55m) 佐藤

 スラブを弱点付きながらロープを伸ばす。ルートファインディング含め最初のピッチなので緊張した。

2P 目5.9(60m) 佐藤

 ハング際を左上してルンゼ状の緩傾斜帯からコルに出る。そこから5 mほど登ってカンテの岩角+カムでビレイ。

3P 目5.10(40m) 佐藤

 カンテ上を行こうとしたがプロテクション取れず少しクライムダウン。フェイスをちょっとしたランナウトに緊張しながら進む。カンテに出てビレイ。今日は3P ずつでリード役を交代なので、坂もっちゃんとバトンタッチ。

4P 目5.9(40m) 坂本

 カンテを左に回り込みカンテ上を行く。その先はプロテクションが取れないスラフェイスになったので一旦ピッチを切った。

5P 目5.10(50m) 坂本

 10m程プロテクションの取れないスラフェイスを頑張って坂もっちゃんが登る。後半から容易なリッジ登り。6P 目以降は50m ロープ一本、コンテで行くことにした。ロープの中間に佐藤が入り数珠つなぎ状態でフォローする。最後のリード役ルー君の出番が無くなるので、この終了点でルー君とリード役を交代してピークまでルー君がトップを行く。

6P 目5.6 ? (150m コンテ) 田中

最後のリッジはスピード重視で同時登攀

 簡単だがスッパリと切れて高度感のあるリッジをコンテでトラバースする。素晴らしいロケーションだが天候急変でゴロゴロと雷が鳴りだしたので慌ただしくピーク目指す。

3人での山頂写真を撮ろうとカメラを構えるとジージーと帯電する始末。「恐ろしい」早く脱出だ。同ルート下降だからと途中で不要な防寒着などをデポしていたのだが大急ぎで逃げ帰ったら見逃し、忘れてしまった。なんてこった。。。

最終回に続く

ギアレポート

MSR|ドラゴンフライ

高所登山に付き物の順化登山は、水分補給がいつも以上に重要だ。強力な火力で素早く雪から水を作りたかったのでドラゴンフライを持参した。これさえあれば強力な強火から炊飯時のトロ火まで自由に火力を調整しながら何でも使える頼もしいガソリンストーブだ。

パキスタンの地方都市で手に入れたガソリンは不純物が入り込んだ質の悪い物で、最初は目づまりに悩まされたが、このガソリンの扱いに慣れてきたら何とかなってしまうのもMSRのガソリンストーブの強みだろう。燃料を選ばす様々な調理に使いやすいドラゴンフライは私の旅に欠かせない火器である。

ドラゴンフライ | MSR 公式 (e-mot.co.jp)


Therm-A-Rest|ベースキャンプ

遠征期間終盤。今日は暗くなるまでクライミングを続けることとなった。ベースキャンプに戻ってきたのは22時を回ってしまった。強烈な疲れが体を支配している。このベースキャンプでいつまでもノンビリと過ごしたくなってしまうが、遠征期間内にピークを目指すには明日一日で疲れを癒やし、アタック体制に入らなければならない。

「ベースキャンプ」はその名の通り、遠征におけるベースキャンプ生活に必要な機能を備えたマットだ。

厳しい遠征登山は疲労の蓄積を如何に抑えるのかがとても重要だ。「ベースキャンプ」は厚さ5cm、R値6という快適さを保ちながらもキャラバンで持ち歩ける大きさに収納可能である。遠征や海外クライミングツアーのパートナーしてこれからも「ベースキャンプ」は僕を支え続けてくれるずだ。

ベースキャンプ | サーマレスト 公式 (e-mot.co.jp)


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