MSRアンバサダーで登山ガイド/アルパインクライマーの佐藤裕介さんが2022年にパキスタンのチャラクサ氷河で行ったクライミングツアーのレポート第2回です。
メンバーの紹介
・ルー君(田中暁):
ヌボーとした顔で常にヤル気があるか無いのか良くわからないがクライミングセンスは抜群だ。筆者同様沢登りも好きだが、沢を目的に行ったレユニオン島へ着いて初日の「乾杯!」と同時にぎっくり腰になった程の「ガラスの腰」を持つ。実はチョーお喋り。
・坂もっちゃん(坂本健二):
坊主にメガネ。どこにでもいそうな学生に見えてしまう彼もいつの間にか40 歳だが相変わらず脱ぐと凄い。風呂場で彼にあったクライマーは尊敬の眼差しでその身体を見つめることになるはずだ。少なく見積もっても5.14 は登れそうなボディを持つ。口癖は「腹へったなぁ」。いまだに学生的な食欲を維持している。
・ゆーすけ(佐藤裕介):
割りとオールラウンドに登山を続けてきたが、パタゴニアで大事故を起こし負傷。3年ぶりの海外クライミングとなる。
負傷とは関係ないが物忘れが酷く「周りが気を付けてくれないと困る」とメンバーに伝えるほど。常に監視が必要なリーダー。ヤル気だけはある。
目次
ToggleBC 到着、順応登山と足慣らしクライミング
DAY1:7月21日
BC(標高4300 m)
BC 生活初日はいつものんびりとベースキャンプを整備して終わりと言うことが多いのだが、今回の遠征は期間が短く異様に忙しい。午前中各テントを建て終えてランチを取ったら早速氷河を偵察に歩いた、目標になりうるカッコいい壁を見付けてモチベーションアップ。
DAY2:7月22日
順応山行1回目 BC 4300m (14:00)-丘の上 4750m (16:40)
早速、順応登山を開始する。午前中、パッキングを終えランチ後14 時に出発した。猛烈な日差しを浴びながら450 m上がり小川の流れる快適なスペースまで。スカルドで手に入れたガソリンの質が悪い為かMSR のドラゴンフライが不調で難儀する。それでもこのガソリンの扱いに慣れてくるとなんとかなるのがMSR の強みかな。
DAY3:7月23日
4750m (06:00) ‐ 5500m (10:00)
5年前と比べて山全体に雪が少なく壁は乾いている部分が多かった。ロッククライミング的には助かるのだが、順応山行は大変だった。5年前は雪を使って簡単に上がった沢がガラガラの沢になっていて落石に気を遣う悪いルンゼ登りとなってしまった。少し傾斜が出てきた雪面上では、、、
こう言う雪壁ってどうやって登るんですか?
そろそろダガーだなあ。
ダガーって何ですか?
ルー君、ダガーも知らんのか。。。
どこまでも山を舐めてるチャラクサ氷河クライミングツアー隊であったが、何とかルンゼを登りきる。目標としていた5500m のコルを整地してテントを張りたかったが暑すぎて日向しかないコルにテントを張るのは後回しにした。各自居心地の良い日陰に移動して休息。日向はとても暑く、日陰は寒いと言う極端な気候である。
DAY4:7月24日
5500 m (06:15) ‐ デポ地4900 m(09:15) ‐ トンガリピーク 約5300 m (14:20 ~19:20) ‐ 4900 m (22:30) 晴れ→小雪→雨
順応登山としては昨夜5500m で泊まって概ね終了だ。しかし欲張って以前から気になっていたアプローチ途中に見えるトンガリピークで足慣らしクライミングをするつもりである。早朝ルンゼを下りだした。落石に注意し、雪面に入ってからは調子の悪いグニャグニャ登山靴&アイゼンで慎重に下る。昨日デポしたクライミングギアを回収して、トンガリピーク目指して谷を横断していった。思っていたより大分遠く14 時にやっと取り付きに到着。トンガリピーク正面の頂上付近までピシっと走っているクラックを登り始めた。「ピークまで簡単な快適クライミングでしょ!」と佐藤は準備段階に言っていてギアも決めたのだが、結構傾斜があって登りごたえのあるクラックが続く。しかも想像以上長い登攀距離となり充実した内容だった。素晴らしい節理がピーク直下まで続く5Pの傾斜の強いクラックであった。最後のピーク直下は節理なくフリーソロ状態となり緊張した。
以下、各ピッチの体感グレードも記した。
トンガリピーク クライミングの詳細
1P 目5.9(30m) 佐藤
出だし、岩質にも慣れてなく少々緊張するが直ぐに傾斜緩まり最後はワイドからカンテ際の立派なボルト&カムでピッチを切る。BC から近くこれだけ尖がって目立つピークは当然のように登られていて、下降点らしきアンカーも散見できた。さっきまでは暑かったのに急に天候悪化して雪がちらつきだす。薄着が祟り、いきなり寒い。
2P 目5.10-(40m) 坂本
オフウィズス~草~ハンド~ハングを右から抜ける綺麗なクラックに見えたが途中邪魔な草がクラックを覆っていた事と、クラックが微妙にフレアしていることなどがあってそれ程スピーディーなクライミングにはならなかった。
3P 目5.10-(50m) 田中
奥にジャムの決まるフレアワイド。中々スピード出せず、「ハーハー」言いながら登ることになった。ちゃんと高所順化するにはもう少し時間が要りそうだ。
4P 目振り子~ 5.10-(50m) 佐藤
ハンドクラックで快適だが左上していて少々登りにくく、やはり息が切れる。最後は飛び出たピナクルに乗ってハンギングビレイ。ここまで全てハンギングとなり傾斜がずっと強い。
5P 目5.10 ‐ (40m) 佐藤
坂本のリード番だが、暗くなりそうなのでそのまま佐藤がリード。15m の左上ハンドクラックを抜けると傾斜が緩まり凹角をスピーディーに上がる。本当のピーク手前から見上げるオニギリピークまではリッジ状で最初の2m でカムを決めたらプロテクションは取れそうにない。ノープロ、若干フリーソロ気分で気合いを入れて10m を登ってピークに立った。と言っても実際はリッジに跨るのが精一杯。セルフビレイも取れないのでやっかいだ。オニギリピーク手前でしっかりした支点にマイクロトラクションをかましているのでラスト10m まではビレイに近い状態。そこからのクライミングは佐藤がリッジに跨りボディビレイしているだけなので、フォローでも落ちることは基本許されない。3人とも無事にピークに立ち、2人をロワーダウン気味に降ろす。「ラストはクライムダウン」と思っていたが2人が苦労してクライムダウンしているのを見てビビる。かなり薄い2㎝程の岩角利用の懸垂下降としたが、当然ながらこれも非常に怖かった。そこからは同ルート下降。1 回目からロープが引っ掛かり回収に手間取った。全てハンギング状態なので様々な作業が難儀である。顕著なクラック沿いに降りているので常にロープスタックの可能性がありドキドキしながらロープを引いていたが、遂に3回目の懸垂下降で完全にロープスタック。佐藤が余っていたロープを使ってリードの登り返し。寒さも影響しかなり消耗しながら取り付きに着いたのは21 時30 分。不安定なガレ場をヨレヨレになりながら下る。ヘッドライトも暗くなってしまった。「まさかこんな遅くなるとはねえ」宿泊セットをデポしていた地点に着きテントに潜り込んだのは23時頃を過ぎていた。
* 使用ギア:ハーフロープ8㎜× 50m 二本、カム1.5 セットC4 # 5 まで、ナッツ、捨て縄
DAY5:7月25日
4900 m (08:00)-BC(10:00)
雨の中、BC へ下りる。(特にオマケで行ったクライミングで)随分とハードな順応山行となってしまった。
第3回に続く
ギアレポート
MSR|ドラゴンフライ
高所登山に付き物の順化登山は、水分補給がいつも以上に重要だ。強力な火力で素早く雪から水を作りたかったのでドラゴンフライを持参した。これさえあれば強力な強火から炊飯時のトロ火まで自由に火力を調整しながら何でも使える頼もしいガソリンストーブだ。
パキスタンの地方都市で手に入れたガソリンは不純物が入り込んだ質の悪い物で、最初は目づまりに悩まされたが、このガソリンの扱いに慣れてきたら何とかなってしまうのもMSRのガソリンストーブの強みだろう。燃料を選ばす様々な調理に使いやすいドラゴンフライは私の旅に欠かせない火器である。
Therm-A-Rest|ベースキャンプ
遠征期間終盤。今日は暗くなるまでクライミングを続けることとなった。ベースキャンプに戻ってきたのは22時を回ってしまった。強烈な疲れが体を支配している。このベースキャンプでいつまでもノンビリと過ごしたくなってしまうが、遠征期間内にピークを目指すには明日一日で疲れを癒やし、アタック体制に入らなければならない。
「ベースキャンプ」はその名の通り、遠征におけるベースキャンプ生活に必要な機能を備えたマットだ。
厳しい遠征登山は疲労の蓄積を如何に抑えるのかがとても重要だ。「ベースキャンプ」は厚さ5cm、R値6という快適さを保ちながらもキャラバンで持ち歩ける大きさに収納可能である。遠征や海外クライミングツアーのパートナーしてこれからも「ベースキャンプ」は僕を支え続けてくれるずだ。