自然の道だけでなく、車道も繋いで作られたロングトレイルを歩く楽しみとは。ハンモックは旅を自由にしてくれると語るニノさんと歩いて、その秘訣を教えてもらいましょう。
ロングトレイルの魅力は、自分が思うままに自由に旅をデザインできること
「ロングトレイル」は比較的最近の言葉だが、日本では1970年代から長距離自然歩道が整備されており、その歴史は意外と長い。
「ニノ」のトレイルネームで親しまれている二宮勇太郎さんは、ウルトラライト(UL)ハイキングをテーマに商品をセレクトするショップ「ハイカーズデポ」のスタッフです。
ULは、素材やテクノロジーが進化した今でこそ当たり前になりましたが、もともとは、数千キロにも及ぶアメリカのロングディスタンストレイル(ロングトレイル)を歩く人たちのあいだで、体への負担を減らして快適に旅を続けるために洗練されてきたスタイルです。
ULをよく知るニノさんはつまり、ロングディスタンスハイキングの楽しみ方もよく知っているということ。その魅力を尋ねると、行程のすべてが楽しいのだと教えてくれました。
「ロングトレイルには、登山道のような自然の道だけでなく車道もありますが、車道は、しかたなく歩く “繋ぎ”の区間ではなく、そこにも出会いや発見があります。ロングディスタンスハイキングは、そういうもの全部を楽しむ旅。スルーハイクにこだわらず、その場所にあわせて楽しめばいいのだと思っています」
スルーハイクとは、トレイルの最初から最後まで、すべてを一度に歩き通すこと。これに対して、トレイルを一定区間(セクション)に区切って歩くセクションハイクというスタイルもあります。
スルーハイクには、そのトレイルがもつ魅力を時間をかけて味わい尽くすような醍醐味があります。一方のセクションハイクは、まとまった時間が作れない人でもチャレンジしやすい方法です。最初から順序正しく歩くのではなく、興味があるところだけつまみ食いするように歩いてもいい。そう考えると、自由で柔軟な旅のカタチが見えてきます。少しずつ距離を伸ばしていくような方法なら、経験が少ない入門者にとっても、ハードルはぐっと低くなります。
戸隠神社をお参り。自然だけでなく、その地域の文化や歴史まで含めてトータルに触れられるのもロングトレイルを歩く楽しみ。
その地方でなければ味わえない食や温泉も旅の大きな楽しみ。神社の近くでのぼりの誘惑に負けて戸隠そばに舌鼓を打つ。
野尻湖畔。ゴールの斑尾山は雲の向こう。ルート上にはキャンプ場の他にペンションや宿坊もあり、レベルを問わず楽しめる。
そうした旅をより自由なものにするために、ニノさんが愛用している宿泊装備がハンモックです。さすがに素人には難しいだろうと思いましたが、意外やこれが、目からウロコでした。「ハンモックのいいところは、とにかくよく眠れること。それから、地面の状態を選ばなくてもいいこと。傾斜地でも問題ないし、下が濡れていても大丈夫です。雨で濡れることはあるけど、泥で汚れることはありません」
専用のスリングや金具があればロープワークを知らなくても設営できる。慣れている人なら、タープまで含めて10分もかからない。
全ての荷物をリッジラインに吊るし、空中に浮かすことで地面の濡れから守ることができる。
妙高戸隠連山国立公園を中心に長野駅から斑尾山までを繋ぐあまとみトレイルの一部を歩いた。
今回は快適性を重視したチョイスだが、最軽量クラスなら手のひらに収まるほど小さくできる。
話をしながらも、よどみなく手が動きます。幹に巻きつけるスリングや金具がよくできていて、難しそうに思えた設営は、じつはとても簡単でした。使えない場所というのも意外とないそうです。「日本だと、本州とまったく植生が違う屋久島はちょっと困りました。でも、あとはアメリカの砂漠地帯くらいですよ」
ニノさんが最も愛用する宿泊装備がタープとハンモックの組み合わせ。じつはテントよりも設営場所を選ばない柔軟なシステムだ。
日本の国立公園にはキャンプ指定地があり、原則としてその場所以外でのキャンプは禁止されていますが、ニノさんはハンモックにはオーバーユースの問題を解決できる可能性もあると考えています。
たとえばアメリカのアパラチアントレイルでは、特定の場所への集中を避けるためにハンモックの使用が推奨されているそうです。ハンモックなら、地面にダメージを与える心配もありません。「指定地でしかキャンプができないと、そこから逆算して行程を決めなければいけないので自由度が下がります。ダメージを与えないからいいだろと開き直るつもりはなくて、ハンモックがきっかけになって議論が深まればと思っています」
初めてのハンモック泊。硬く当たるところがどこにもない、包まれるような感触です。風がかすかに体を揺らすのを感じながら明日のことを考えると、寝る場所がいくつか思い浮かびました。なるほど。選択肢が増えるほど、旅は自由にそのカタチを変えられるようになります。
ハンモックと好相性の高効率ガスストーブ
高効率・低燃費に加え、ハンギングでも使えるのがウィンドバーナーの魅力ハンモックとの相性も抜群だ。
ULハイカーといえば、火器はアルコールストーブや固形燃料を選択するイメージですが、ニノさんはガスストーブを愛用しているそうです。バーナーとクッカーが一体になり、吊るして使えるMSRのウィンドバーナーパーソナルストーブシステム(以下、ウィンドバーナー)は、ハンモックとの相性も抜群です。「長いスパンで歩くときは、効率の良いガスストーブを使います。アルコールストーブは2 〜3日までの旅なら燃料を軽くできますが、行程が長いとガス以上に沢山の燃料を持ち運ぶことになりますから」
ワッシャーと蝶ネジでぶら下げる位置に合わせて長さを変えられるようカスタマイズした。
長めの休憩ならハンモックをベンチ替わりに。素早く機能する道具は躊躇わずに使える。
ウィンドバーナーは、従来のアウトドア用ガスストーブにはない、ラジエントバーナーという燃焼機構を採用しています。ガスと一次空気の混合気のみで燃焼するこのバーナーの最大の利点は、燃焼部を完全に覆えること。クッカーの底でバーナーヘッドに蓋をしてしまうので、風の影響をほとんど受けません。
ラボテストでは、競合他社のストーブが風速3mで沸騰させられなかったのに対し、ウィンドバーナーは多少ロスはしますが風速5mでも沸騰させることができました。優れた耐風性は、安定した低燃費につながります。長旅になるほど大きなメリットです。「予備の燃料は持ちますが、燃料消費量がシビアに読めるので持ちすぎる必要がありません。ハンモックハイカーにとってはハンギングできるのも大きなメリット。寒さにも強いので、ほぼ欠点がありません」。
使用ギアの紹介
マットとタープは適材適所で使い分け
ニノさんは2種類のマットを使い分けています。ひとつはサーマレストのリッジレストソーライト(廃盤で現在はリッジレストクラシック)、もうひとつがプロライトです。どんな風に使い分けているのでしょう。「マットは、そのときに使うバックパックの容量に合わせて使い分けています。バックパックの容量にゆとりがあるときはリッジレストソーライト。容量の小さいバックパックを使うときは、コンパクトに収納できるエアータイプを使います。プロライトは厚みがほどよく、寝袋の中に入れても使えるので、ハンモックとの相性がいいんです」

プロライトは寝袋の中に入れられる。ハンモックの上でマットがズレる心配がない。
パックのフレームにするならリッジレスト。背中側を平らにするのが快適に背負うコツ。
ふだんはハンモックを使うニノさんですが、ハンモックが使えないときにはタープで寝ることもあります。「ハンモックは、タープ泊のバリエーションのひとつなんです。タープで泊まれる装備があれば、そこにハンモックを足してやればいい。マットを装備に組み込んでいれば、ハンモックが使えないときでも地面で寝られますから」

スルーハイカーウィング100は、両端を地面すれすれまで落とすと悪天候にもかなり強い。
ハンモックやタープは行く先や時期によっていくつかを使い分けているそうですが、耐候性を重視して選んだのがMSRのスルーハイカーウィング100です。「最軽量ではありませんが、サイズ感がちょうどよくてハンモックとの相性がいいタープです。プロテクション性もかなり高いですよね。地面に近く張ると、ほとんどテントみたい。天気が悪い時も安心です」。
使用ギアの紹介
プロフィール

二宮勇太郎
にのみやゆうたろう
1982年、広島県生まれ。アメリカのパシフィック・クレスト・トレイルをスルーハイクしたのちに東京・三鷹のハイカーズデポスタッフに。ハンモックを愛用し、雑誌やWEBなどのメディアでその魅力を発信している。著書に『ハンモックハイキング』(山と渓谷社)
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