BACKCOUNTRY RESEARCH

スタッフ漫遊記|アラスカ・デナリ登山編②

こんにちは!
モチヅキスタッフのニコルです。
2回目の配信となるス タッフ遠征記。
前回はデナリ登山のスタート地点、カルヒトナベースキャンプにセスナ降り立ったところまで行きました。
今回は、登山本編。カヒルトナベースキャンプ(ランディングポイント)からデナリ山へと登っていきます!

ルート概要

ウエストバットレスルート、いわゆるノーマルルートで5〜7月には500人近くがこのルートを使って登山をする。
ランディングポイントから頂上までは片道約27km。
標高差約4000m。
一般的には、入山から下山まで2週間から20日ほどの期間がかかると言われる。

登頂成功率は約35%前後と低いが、主な理由は以下である。
・デナリの場合は他のセブンサミットと違い、国立公園のルールで全ての荷物をベースキャンプ以降は自分で荷揚げする必要があること(実際のところ、ポーターを使用している人を目撃したが…笑)
・気象の変動が激しく、一度悪化すると数週間悪天が続くこと
・緯度が高く、酸素量がヒマラヤなどに比べ減る為高山病になりやすいこと

※マップの青いマークをクリックするとキャンプ名を見ることが出来ます。

1日目:カヒルトナBC→C1

僕はランディングポイントへ降り立っていた。
アラスカ時間(サマータイム)で夜の8時。アラスカは5月18日時点で、ほぼ白夜のため日没時間は11時くらいだ。たとえ日没しても黄昏時程度までしか暗くならない。
今回登るウエストバットレスルートは、所謂ノーマルルートというデナリを登るルートの中でも最も登られているルートだ。
このルートの半分近くが氷河で、氷河にはクレバスというヒビが無数に入っている。クレバスの深さは数百メートルあり、もちろん落ちればただでは済まないが、更に恐ろしいことに雪が降れば狭いヒビは、開口部が埋まってしまい隠れてしまう。この隠れたクレバスをヒドゥンクレバスと言い、積雪量が多いとさながら地雷原に生まれ変わるのだ。そのため、ヒドゥンクレバスはデナリを登る登山家を最も恐れさせているのだ。
ヒドゥンクレバスに落ちて、脱出するのはかなり難しく、基本的に死を意味すると思って間違いは無い。
しかし、単独登山の入山許可を取る際は、ヒドゥンクレバスに落ちたらどうやって抜け出しますか?という禅問答のような質問があり、これに答えられないと許可は下りないのだ。

僕は、このリスクをできる限り減らすため、最もリスクの高いC1までは気温の下がり雪が固くなる夜間に移動することを決めていた。
今は夜の8時。到着したばかりではあるが、そのままC1へ移動することを決めた。
BCには、飛行機の管制をしているお姉さんがいて、予約していた燃料と、ソリ、フラッグ(荷物を埋めたときの目印)を受け取り出発する。
これから最大30日ほど登山をすることになるので、ソリに乗せた荷物と、背負った荷物、全部合わせて80kgの荷物を一人で荷揚げすることになる。
これまたヒドゥンクレバス対策の2mのスキーを履き、予め用意しておいたスリングで、ソリと腰につけたハーネスを結びソリを引っ張って進む。

ソリに乗っているバケツはトイレだ。

ランディングポイントは、カヒルトナ氷河の支谷のひとつのSouth East Fork(南東支谷)にある。アラスカ山脈で三番目に高いハンター峰の北壁の下に位置している。
デナリを目指すには、一度カルヒトナ氷河本流に合流する必要があるので、一度標高を下げることとなる。
それ以後は、標高を下げることなくカヒルトナ氷河のど真ん中をC1歩くこととなる。
C1までの移動は、標高差300m、移動距離9kmほど。

ランディングポイントを出発し、カヒルトナ氷河本流に合流する。
氷河の中心で、目の前の光景に少しの間声を失う。(一言も喋ってないが)
その景色は、完全に異世界。色はほとんど無く、白と、青と黒と茶色くらいで、生気の感じれるものは基本的にないが、フォーレイカーを始めとする美しい山嶺を眺めていると不思議と気持ちが上がっていく。

どの山を登っても面白そうなのだ。

夕陽があたってキレイだった。

道中は、先行者のトレースがしっかりとあり迷うことなく歩けた。
そして、ボッカでかなり鍛えていたので、80kg近い荷物を運んでいても全くもって余裕だ!
ここで、辛かったら引き返すべきだが・・・。

だがだからと言って、ヒドゥンクレバスを踏み抜くトドメをさすのが自分ではないとは言い切れないので慎重に歩みをすすめる。

デナリへ向かってひたすら歩く

多分、デナリっぽい山を正面に氷河歩きをする。
氷河の幅が2kmほどあり、デナリまで15kmほどあるので距離感が麻痺して進んでいるのか進んでいないのかよく沸かない不思議な状態になってしまう。

振り返る

振り返ってみても、氷河のど真ん中に自分だけ。
少なくとも数キロ範囲に生命らしきものは自分だけだ。

大きなクレバスが中央にみえる

ひたすら無機質な氷河歩きで現実感を失い気が緩むが、ときより氷河の真ん中に口を開けたクレバスが現実に呼び戻してくれる。
落ちたら、とりあえずどうする?とか、落ちた時気づいてもらう為にロープを引きずるか?とか、クレバス落ちをシミュレーションしてただただ歩く。

トレースだけが生命を感じさせる

ひたすら、トレースを歩くだけだが、トレースからは生命を感じる。
これは、一人で登っているわけではないのだなと認識させられる。
状態は単独だが、同時に挑戦している他の登山者と共に登っているのだ。
単独すごいねと下山後言われたが、トレースを踏んでいる時点でそれは無いと個人的に思ったのである。

カルヒトナベースキャンプを出てから5時間、時々景色に見とれながら淡々とあるき続けるとC1に到着した。

すでに時間は深夜1時。
基本的に、キャンプ地では風防用のブロックで壁を作りテントが飛ばないようにするが、先行者が残したキャンプ後があったので、ヤドカリ方式で場所を使わせてもらいテントを建てこの日は眠りに付き記念すべき登山1日目を終えた。

つづく

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