YOKO NAKAMURA -WOMEN’S TALK-

Photos : Tsutomu Nakata

現在の女性フリーライドシーンを牽引する中村陽子さんは、バックカントリーでの撮影において男性クルーと行動を共にすることが多い。今回は、そうした環境下における女性ならではの視点を伺ってみた。

MSR SNOWSHOE INTERVIEW

「メンズと一緒にいると、どうしてもラインを譲っちゃうんだよね」

バックカントリーの撮影で男性クルーに女性ひとりという状況もあるはずですが、難しいことなどはありますか?

難しいとか辛いとかは大して無いかな。どちらかというとポジティブなことしかない。誘ってもらえたら嬉しいし。ただそれこそ女性あるあるで、メンズのハイクスピードに付いていけても前には出られないというか。最初の方は交代で前を歩くけど、例えばこの撮影の時のようにハイクが長いと後半で「ゴメンあとお願い」みたいな。

そこはイーブンな立場でいようと行動しているんですね。

もちろん。だけど、やっぱりB B Aだから身体が思うようにいかないというか(笑)。

ちなみに、この写真の撮影はどのような山行でしたか?

カメラマンの中田奨がチェックしていた日高エリアのある斜面に中井孝治と行ったんだけど、とにかく遠くて。クルー全員が初めてのエリアってのもあってルートも探り探りだったし、7時間近く歩いてやっと斜面と対峙できても、いざ撮影というタイミングで光が無くなっちゃうっていうね。なかなかハードでしたよ。

それは辛い…。しかしロングハイクですね。

だから少しは中井もハイクで楽できるようにとは考えたんだけど、後半はもう付いていくのが限界。ただ中井はハイクが速い人だから、私も決して遅くはないんだけどね。

「ポジティブなことしかない」と言ってましたが、例えばどのようなことが挙げられますか?

この時でいえば、まずこんな遠いフィールドへ行けたこと自体だよね。メンズとでないと挑戦できないスケールだったと思うし。他には高いレベルでライディングのことを一緒に考えながら滑れることも大きいと思う。あと中井は斜面に対してちゃんと怖がるタイプだから、こっちもより冷静になれるって部分はある。まあそれは誰と一緒でも基本的なことだと思うけどさ。

お互いの滑るラインはどう決めているんですか?

ああ、実はそこも女性あるあるで、メンズと一緒にいると、どうしてもラインを譲っちゃうんだよね。なぜかと言うと、相手がいいモノを残すとわかっているから。だから私は常に最低でも人数分以上のラインを見つけるよ。隙間産業だけど、そのおかげでラインを見る目は養われて豊富になったかな。

なるほど。それって悔しさなどは無いんですか?

ゼロじゃないけど、それ以上に凄いパフォーマンスを見せてくれるから、あまり思わない。結果的にはイェーイって感想が多いかな。もちろん「どこいきたい?」って聞いてくれるし、譲ってくれることもあるよ。

では女性クルーだけで山に入る場合では何か変化しますか?

なるべく安心感の持てるフィールドへ行くよね。もし何かあった時でもクルーだけで対処できる場所であったり、反対にちょっと攻めた場所なら滑りも行動も無理しないとか。

先シーズンはそうしたシチュエーションもありました?

ハート・フィルムの撮影で佐藤亜耶と行く機会は結構あった。彼女とであれば同じ意識レベルで山の中にいられるからすごく良いんだけど、何かあった時のリスクは高くなるだろうから、大きい斜面や険しいラインはメンズがいないとね、ってお互いに話しながら行ってる部分はある。結局、女性だけだとどうしても行きたい場所が狭まるってのはあるよね。

なるほど。改めて聞くと興味深い話ですね。

だからメンズの中にいるのは安心感はあるし、ちょっと高いレベルでいろいろと挑戦してみようって攻められる側面はあるかな。

WHY MSR ?

「買うなら良いものを買おう」と出会ったMSR

陽子さんにとって初めてのスノーシューは何で、いつ頃手にしましたか?

確か25歳だったと思うから、15年くらい前かな。札幌の“トライアル”というスノーボードショップでM S R の「ライトニングアッセント」、ストラップが3つあるモデルを買ったのが初スノーシュー。ちょうどその頃、山を滑るためのギアを揃えておいた方がいいなと思っていたんだろうね。シューだけじゃなくて、その他のギアも購入していたし。まだ今のように山を滑ったり撮影したりする前だったけど、徐々にそういう機会も増えそうなタイミングだったから。

なぜその時にMSRをチョイスしたのですか?

前知識もそれほどなかったんだけど、ショップのオススメとして「絶対にライトニングだ! 軽くて丈夫でこれしかない」って。買うなら良いものを買おうって思ってこれにしたよ。

実際使ってみてどうでしたか?

正解だったね! 他のスノーシューを使っている人を見た時に、ライトニングで間違いなかったなって確信できた。結局その時のスノーシューを10年以上使い続けたかな。壊れないもん。

3 年前に現在のパラゴンバインディングにアップデートされましたが、使用感はどうですか?

めっちゃいいよ。私スノーシューばかり使ってるから、履き慣れすぎて3ストラップの頃からスノーボードとスノーシューのスイッチがかなり早い方だったんだけど、パラゴンバインディングになってからさらに早くなった気がしてる。とくに撮影の時はハイクして滑ってを繰り返すからパパッと履き替えられるのがいいよね。正直、それ以外の部分では3ストラップの頃と使用感に変化はあまりないというか、違和感がひとつもないというか。

違和感がなく脱着がよりスムースになったのならポジティブですね。

そうなんだよね。3ストラップの場合、使い慣れていなかったり、キッチリ締めることが苦手な人は、たまに歩いている最中にスノーシューがすっぽ抜けちゃったりするじゃん。しかも軽いからそのことに気づかず3 歩くらい前に進んでるとか( 笑)。パラゴンだとそれも無くなるよね。

ウィメンズモデルを使ってますか?

そう。一番最初に買ったモデルからウィメンズ用だから、それしか知らない。メンズ用は幅が広いと思うと、ウィメンズしか使えないかな。お互いを踏みつけて前に倒れそうだし。

スノーシューの性能に助けられる場面などはありましたか?

急斜を登ることが多いからいつも助けられてるよ。他にも硬かったりアイシーな斜面でも余裕で登れて、アイゼンを持っていくような十勝エリアでも結局アイゼン出さずに終わるとかね。あと、先シーズン利尻島へ行った時かな。私、急登でも怖がらないタイプなんだけど、その時はポールを一番短くして登るくらいの急斜面が全面アイスっていう結構な極限状態で、ここはピッケルにすべきだったと、さすがに手に汗かいたよね。でもスノーシューはしっかりアイスバーンを捉えてくれてたね。

激しい斜面へ行ってますね。ちなみにそのポールは何を使用していますか?

3節の「エクスプローラー」。昔からそのタイプを使い慣れてるから迷わずこっちを選んだかな。登ってる途中での長さ調節とかも楽にできるし、ダイナロックはグローブしたままでも簡単に締め具合を調整できるから凄く便利だなと思ってる。

中村陽子

北海道出身。
ハーフパイプを経てフリーライディングに転向。2012年、アラスカのワールドフリーライドチャンピオンシップスで準優勝し、翌年優勝を果たす。
天神バンクドスラロームでも3度優勝。現在は2018年春に負った人生2度目の大腿骨骨折から復活中という、身も心も鉄骨BBA。
2021年秋リリースになるHeart Films の映像作品『FLOW』に出演。

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