BACKCOUNTRY RESEARCH

雪山|コンディションを探る癖の重要性

Words: Tomooki Fuse, Photos: Kazushige Fujita

MSR SAFETY STORY

雪山での「安全」とは己の経験と知識、動物的な勘で確保するもの。
ガイド・布施智基が実践する日常的な行動から、雪山での立ち居振る舞いを再考する。

ここ数年は冬が来るのが遅くなっているが、だいたい1 2月の終わり頃からコンスタントに雪が降り始め、正月休みが明けるとハイシーズンを迎える。山肌にベッタリと雪が積もり地形が丸くなり始めると、岩肌が隠れて滑れる斜面が増える。この頃からローカルはスイッチが入り次の晴れ間が待ち遠しくなるのが常だ。白馬には極上のパウダーでないと滑れない急斜面がいくつも存在する。それを狙うのは至難の技。体力や滑走技術も必要だが、それ以上に雪のコンディションを読むのが難しい。もし、その急斜面で雪崩が起きてしまったら命辛々だろう。

比較的に気温差が激しく、標高差もあり、強風が抜ける地形で、南北で気象条件が大きく異なる白馬。午前と午後でもコンディションが変わるのは当たり前。たくさん降ったなと思っても、風で雪がすべて飛んでしまっていたり、気温が高すぎてせっかくのパウダーがベタベタなんてこともある。その上にまた雪が積もればリセットするわけだが、積雪内は複雑なレイヤーを構築する。「ピーカンパウダーで最高!」なんて言ってる間にも日射の影響で積雪表面は溶けている。その溶けた雪は夜間に凍り、その上に雪が積もれば氷の層は滑り面になる。その氷が雪崩の原因とは一概にも言えないのだが……。

そんなわけで僕らは雪を追いかける。昨日は北風だからこっちが良いとか、下界は雨だったかもしれないけど標高を上げれば雪だとか、その日その日でコンディションは刻々と変わり二度と同じ条件は現れない。サーファーが波を追いかけるのと同じである。波も雪も一期一会。その二度と現れないだろう風雪が作り出した地形を求めて滑り続けるのである。

この日も新しいラインを求めて尾根に沿って歩いていた。方位がはっきりしている白馬の地形は自分が歩いている尾根から見た左右の斜面は積雪コンディションのヒントを得るのに都合が良い。南北の斜面を覗きながら日射の影響や風向きなど雪の積もり方や雪の硬さなどをチェックしながら歩く。

前日は街には雨が降った。その雨がどの程度影響しているのかを確認する必要がある。幸いに山の上は雨ではなかった様で雪がたくさん積もっていた。その雪が雨から雪になったのか、最初から雪だったのかを調べる必要がある。どの様に雪が積もっているのかピットを掘ってみた。

深く掘り下げると、今シーズンの雪の降り方が見えてくる。たくさん降っては溶けてを繰り返したミルフィーユ状。なんだか温暖化を物語っている様だ。今回降った湿った雪の層の下にはガリガリの氷の層がある。前日の降雪も2 0 c m 程度だろうか。山の上は降り始めから雪だった模様。湿った暖かい雪から徐々に気温が下がっているので氷の層とのくっつきは良い感じだ。それよりも標高の低い雨の影響を受けた斜面は要注意。カチカチに凍っていることがわかった。

ライディングは雪の良い標高の高い場所でおこなって、標高を下げないように登り返す。そして帰り道は修行の路。雨が当たって凍ったカチカチの斜面を滑って帰った。近年、寒暖差が大きく、気象変動の影響を受ける白馬界隈は難しいコンディションを生み出している。毎日、山を見ていても読み取りにくい複雑な積雪レイヤーと雪の変化の速さは水分の多い暖かい雪が生み出しているのではないかと感じる。本当に良い雪の寿命は短くなり、それを追いかけるのは至難の技。でも、その極上のコンディションを味わってしまうと、またその瞬間を求めて山へ繰り出してしまうのである。

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