TREKKING & CAMP|北陸の霊峰でいい匂いと笑い声と地酒。白山の懐で迎える豊かな夜へ

福井を拠点に山を歩く山本 陸さんに案内され、日本三霊山・白山の懐へ分け入った一泊二日。

山頂だけではない、白山の豊かさを味わう旅。

山本 陸さん(やまもと りく)

福井県のアウトドア・ライフスタイル・ストア「THE GATE MOUNTAIN」の店長。仲間に誘われたトレイルランニングをきっかけにアウトドアにのめり込み、いまでは登山にテレマークスキーとシーズンを通して山を楽しむ。山麓の地酒を持ち上げて呑むのがたまらない酒好き

文・大堀 啓太 写真・二見翔太

 登頂だけが登山じゃない。

 よく耳にする言葉だが、本当にそうだろうか。びょうびょうと風に揺れるテントの中、スリーピングバッグに潜り込みながら、今日の道のりを思い返していた。濃い森、澄んだ水、鍋を囲んで交わした会話。悪天で山頂には立てなかったが、間違いなく、いい登山だった。そう思えたのは、福井を拠点に山を歩く山本 陸さんの案内と、深く、そしてやさしく人を包み込む白山というフィールドのおかげだ。

「距離感がちょうどいいんですよ」

毎シーズン5〜6回は白山に足を運ぶという陸さんは、そう言ってこの山の魅力を教えてくれた。

「山深くに入っていく感覚があるのに、日帰りもできるコンパクトさがある。ロケーションも抜群だし、誰でも受け入れてくれる懐の深さがあるんです。山小屋も多くて安心できるし、トイレもきれい。小屋によっては生ビールもありますよ」

理想的な登山の条件が、さりげなく並ぶ。地元で愛されてきた山だということは、登山口のにぎわいを見ればすぐに分かった。

 白山は福井・石川・岐阜の三県にまたがる加越山地の最高峰(標高2,702m)。富士山、立山と並ぶ日本三霊山のひとつであり、日本百名山、花の百名山にも数えられている。信仰、自然、登山文化。そのすべてが幾層にも重なり、この山を形づくっている。

 今回のテーマは“白山の楽しみ方”。南竜山荘のテント場をベースに、白山と別山を歩く1泊2日の計画だった。もちろん、ベースキャンプでは宴も待っている。ただし、天気予報は芳しくない。初日の午後から崩れ、2日目は残念な空模様だ。登山口で気落ちしていると、陸さんはあっさり言った。

「前に天気が悪かったときは、割り切ってキャンプだけ楽しみました。それでも、白山は十分にいいんですよ」

その言葉に背中を押され、歩き出す。

 別当出合で装備を整えて歩きだすと、さっそく出迎えてくれたのは大きな鳥居。昔の人は、雪を抱いて光り輝く神々しい姿から“白き神々の座”として崇め、山岳信仰が発展したという。神聖な場所に足を踏み入れると思うと身が引き締まるようで、一礼をして鳥居をくぐった。まず目指すテント場がある南竜山荘へは、砂防新道をいく。森に入ると、すぐに緑の濃さに圧倒される。

別当出合から吊り橋を渡り砂防新道へ。谷底までの高さと登山のはじまりに胸が高鳴る
ダケカンバやブナ、針葉樹など、緑豊かで清々しい森の中を進む

白山は手取川、九頭竜川、長良川、庄川といった大河の源流域だ。豊かな水が、この森を育ててきたことが肌で分かる。ダケカンバやブナの森を抜け、石段の急登に息が上がる。それでも足を止めずにいられるのは、足元に咲く花々の存在だ。視線を落とすたび、自然と歩みが続いていく。

 やがて視界が開け、甚之助谷に目をやると、そこに広がっていたのは巨大な砂防堰堤群だった。いま歩いている砂防新道は、もともとこの砂防堰堤を工事するための作業道だったという。

「この工事、100年以上も続いているんですよ」

陸さんにとっては見慣れた光景かもしれないが、圧巻のひと言だ。地滑りを起こしやすい地質と豪雪地帯という条件のもと、人は山と向き合い続けてきた。美しい景観の裏側にある、終わりのない営み。その現実が、静かに胸に残る。

約2.5時間で開けた眺望。百名山の荒島岳や、福井市街まで見渡せる

 登り始めてから2時間ほどで甚之助避難小屋に到着。小屋の前の広場で一本入れていると、陸さんが山腹を指さして言う。

「この先のトラバースが最高なんですよ」

小屋から上がった分岐を右に進んで、山腹をトラバースする。たしかに気持ちがいい。視界が一気に開け、右手には連なる山々が眼下に広がり、福井市街が望める。テント場がある窪地の南竜ヶ馬場が山中の楽園のようだ。天気予報はきっと外れたのだろう。汗ばむほどの快晴だ。途中の沢で思わずバックパックを下ろし、ひやりと澄んだ水で火照った体を冷やす。この瞬間だけでも、ここまで来た価値がある。

 南竜山荘のテント場は、広く、平らで、蛇口から水が汲める。水洗トイレは清潔で、なんとウォシュレットまで備わっている。山中とは思えない快適さだ。テントを張ろうと準備をしていると、すこしずつ雲が湧いてきた。そして、テントを張り終わったころには、いままで見えていた稜線がすっぽりと分厚い雲に覆われていた……。吹き始めた風も冷たい。

テントを張っていると、みるみる雲が広がり、いつの間にかどんよりした雰囲気に

「ひとまず、コーヒーでも」

陸さんがドリップしてくれた一杯は香りがよく、緊張感をほぐしてくれた。天候回復を待つが、雲はいっこうに晴れない。山頂はガスに包まれているだろうと、登頂は諦めることにした。とはいえ、ここからが本番だ。

山頂も雲に隠れてしまい、ひとまず様子見。テント場が快適だと、心にゆとりができる

「普段はアルファ化米や簡単な食事ですませちゃいますけど、みんなで登るときは料理します」

担ぎ上げた材料を並べ、野菜を切っていく山本料理長の手際はいい。ガスストーブが点火され、鍋が掛けられる。一品目はにんにくたっぷりのモツ鍋、二品目は純鶏(卵を産み終えた雌の親鶏。福井で人気の鶏肉)とモヤシ炒め、締めはホルモンペペロンチーノ。どれも山で食べるからこそ、うまい。手にするのは、陸さんおすすめの地酒。風の音を聞きながら、笑い声がテント場に溶けていく。

 翌朝、外は一面のガスだった。迷うことなく下山を決める。山頂に立てなかったことに、悔しさはない。白山の懐に身を置き、その一部として過ごした時間が、確かに残っている。登頂だけが登山じゃない。その言葉の意味を、静かに噛みしめながら、山を後にした。

Trekking

GEAR SELECT

軽さと火力を両立するポケットサイズの火器

約73gの軽量設計にY字バーナーヘッドを採用。風に強く効率的な燃焼で素早く湯を沸かす。シンプル構造で信頼性が高く、登山装備の軽量化もでき、トレッキングで活躍する定番モデル。

MSR/ポケットロケット2
最小重量73g(ケース、ガスカートリッジ除く)
使用サイズφ12×h9㎝(ガスカートリッジ除く)

ストーブ性能を底上げする遠隔アダプター

MSRストーブを低く安定設置できるリモートアダプター。火元の遠くから操作でき、グループや不整地で安全かつ効率的な調理を実現するストーブアクセサリー。

MSR/ローダウンリモートストーブアダプター
重量180g

快適さとプロテクションを両立した タフな3シーズン用テント

側面が高く立ち上がる構造で圧迫感を抑え、広い居住空間を確保。換気のための最小限のメッシュを備えたフルクローズ仕様のインナーが冷風を遮り、悪天候でも暖かい。

MSR/ハバハバHD1
最小重量1,200g
フロアサイズ224×81㎝
室内高99㎝
収納サイズ51×13㎝

超軽量・高断熱 R値4.5のエアーマット

R値4.5の高断熱性能をもつ7.6㎝厚が地面の冷気を遮断。軽量で収納性にも優れる。長い行動のあとでも体を預けて安眠できる快適さで、山の一夜を支える信頼のエアーマット。

サーマレスト/ネオエアーXライトNXT(Rサイズ)
重量370g
使用サイズ51×183㎝
収納サイズ23×10㎝

マグに収まるステンレス製 コーヒーフィルター

ステンレスメッシュ製で繰り返し使えるエコなフィルター。マグカップに収納できるサイズで、登山でのコーヒーやお茶を淹れるのに便利。重量28gで携行しやすい。

MSR/マグメイトコーヒーフィルター
重量28g

折り畳める 暖色灯の携行小型ランタン

コンパクト設計のポータブルソーラーランタン。白色ボディに温かみあるウォームライトで周囲を柔らかく照らし、夜の手元作業やテント生活を演出する必携の明かり。

CARRY THE SUN/キャリー・ザ・サン ウォームライト ホワイトスモール
重量57g
使用サイズ8.8×8.8×8.8㎝
収納サイズ8.8×17×1.2㎝

開栓ワインを軽快に 持ち運ぶソフトボトル

開栓後のワインを移し替えて携行できる800ml容量。匂い移りを抑える素材で風味を保ち、軽量かつ折りたためて下山時もかさばらない。山の夜を豊かにする保存容器。

プラティパス/プラティプリザーブ 800ml
重量24g
サイズ14×27㎝

調理と収納を最小化する 軽量キッチンセット

フォールディングスプーンやスパチュラ、カッティングボードなど必要十分な調理ツールを集約。調味料ボトルやタオルまで備え、山での調理を効率よく支える軽量セット。

MSR/ウルトラライトキッチンセット
重量136g
記事を共有:

大堀啓太

大学探検部で沢登りに出会って早20年以上。いまでも沢登りしながらのテンカラ釣りやMTB、BCクロカンなどのアウトドア遊びを楽しんでいる。アウトドアショップ店員、アウトドアメーカーを経て、現在はアウトドア専門のデザイン会社の制作ディレクター・ライター。

人気の記事