ARC’TERYX × STORM|なぜARC’TERYXはSTORMを選択したのか

文・寺倉 力 写真・山本 智

 アークテリクスの直営店では、ゴアテックスウェアを対象としたメンテナンスサービスを実施している店舗がある。そこで使用されているメンテナンスキットに、STORMが採用されていることをご存じだろうか。容器は業務用仕様だが、中身はアルミボトルや量り売りで提供されている「STORMアパレルウォッシュ」と「STORMアパレルプルーファー」。つまり、市販品と同じものである。

 グローバルなアウトドアブランドの国内直営店が、公式にSTORMを採用した例は、これが二例目にあたる。もう一例は、パタゴニア。同社はラボテストを経た後に、2019年秋から直営店で販売するアウトドアウェア用洗剤と撥水剤を、すべてSTORMのボトル製品に切り替えている。さらに、そのうち8店舗(2026年1月現在)では店内で量り売りも実施している。

 一方、アークテリクスがウェアのメンテナンスサービスを開始したのは、2022年10月からである。国内初となる「ReBIRD(リバード)」サービスカウンターが設置された東京・丸の内ブランドストアのオープンと同時だった。

「ReBIRD」とは、アークテリクスが展開するサステナビリティ・プログラムで、ウェアの修理とメンテナンスを通じて、製品を長く使い続けることをサポートする取り組みだ。日頃からこまめにケアを行い、故障があれば修理する。そうした積み重ねが製品の寿命を延ばし、サステナビリティの実現につながる、という考え方だ。

 現在、国内の直営店のうち、東京・丸の内、大阪・心斎橋、新宿、池袋東武、札幌の5カ所のブランドストアに、ReBIRDのサービスカウンターが設置されている。ここでは、ウェア修理の受付やメンテナンスの相談に応じている。また、ファスナーの引き手やドローコードの交換、小さなキズへのパッチ貼りといった軽微な修理はその場で対応。一方、シームテープや圧着箇所の剥がれなどは預かり修理となり、アークテリクスのリペアセンターへと送られる。

 特徴的なのは、専任スタッフがマンツーマンで対応してくれる点だ。要修理箇所だけでなく、ほかに不具合はないかを含めてウェア全体をくまなくチェックし、修理の方向性を説明。同時に、トラブルを未然に防ぐための日常的なメンテナンスについてのアドバイスを行なってくれる。

まずは、ウェア全体をチェック。修理個所以外にも不具合がないかを確認するところからプログラムは始まる

 さらに、新宿、池袋東武、札幌の3店舗には専用機材をビルトインした「ReBIRDサービスセンター」が開設され、アークテリクスのゴアテックスウェアを対象としたケアおよび再撥水加工サービスを行っている。STORMを使って、店舗内で再撥水加工を行なっているのだ。

 なぜ、アークテリクスはそこまでしてメンテナンスに力を入れているのだろうか。アークテリクスReBIRDプログラムの責任者、室田剛さんと、国内でのReBIRDプログラムの発足以来、各店舗で専任スタッフを務めてきた林彰文さんに話をうかがった。

室田「一番の理由は、機能回復のためです。私たちはアークテリクスのウェアを、ファッションアイテムではなく、フィールドで使う“道具”として捉えています。実際に山で着用したときに、機能性が低下していては、安全にも影響しかねません。そこで、ウェアをケアすることで本来の機能を回復させたい。そのため、私たちは洗濯ではなく機能回復洗浄と呼んでいます」

── 数あるアウトドアウェア用洗剤と撥水剤のなかで、なぜアークテリクスはSTORMを選択したのでしょうか?

室田「最大の要因は、環境への配慮です。ほかの製品と違い、STORMは一度のケアで洗浄と撥水処理を同時に行えますよね。そのぶん、水や電力の使用量を抑えることができます。そうした点が、STORMの導入に踏み切った大きな理由です」

── 環境評価が高い、ということですね。

室田「洗浄力や、使い続けることで撥水力が高まっていくという、STORM本来の性能も見逃せません。ただ、それ以上に大きいのが、サステナブルという観点です。アークテリクスとして、環境負荷をどう減らしていくかを考えたとき、STORMは非常に理にかなった選択だったのです」

── メンテナンスしてもらえるのは、どんな製品ですか?

林「現在対応しているのはゴアテックス3レイヤーのジャケットとパンツ、それに化繊中綿入りのゴアテックスウェアです。ダウン製品については、使用する溶剤を切り替える必要があるため、現状のシステムではお受けできていません。ただし、今後の課題として、検討を進めています」

── なぜ、ゴアテックスのウェアに限っているのでしょうか。

林「一番の理由は、ゴアテックスが、こまめなメンテナンスを必要とする素材だからです。ゴアテックスは水には強い一方で、油には弱い。皮脂汚れや汗に含まれた油分が素材に悪影響を及ぼしてしまいます。それを防ぐには、着用後にこまめにメンテナンスを行うこと。洗濯は、そのなかでもっとも手軽で、効果的な方法です」

── ゴアテックスの洗濯の必要性は、どの程度浸透しているのでしょうか。

林「修理を依頼される方とお話ししていると、一度も洗ったことがない、という方が半数近くいらっしゃいます。シーズンの切り替え時期にだけ洗うという方も多く、本来必要とされる、着用後に洗濯している方は全体の2割程度でしょうか」

── ゴアテックスは、洗濯できないと考える方も多いようですね。

林「『ゴアテックスは洗ってはいけないと思っていました』という声は、いまも本当に多いですね。洗い方がわからないという方や、何か特殊な洗濯が必要なのでは、と感じている方も少なくありません。そうした方には、ぜひReBIRDサービスセンターを利用していただきたいと思っています。実際にウェアのケアと撥水回復を行いながら、家庭でも簡単にメンテナンスできることも、その場でご説明していますので」

室田「実際、メンテナンス不足が原因で、修理が不可能になってしまうゴアテックスウェアも少なくありません。私たちとしては、生地の剥離さえなければ直せたのに、と思うケースも多く、かなり歯がゆいですね。メンテナンスが製品寿命に直結する素材。だからこそ、ゴアテックスのケアにしっかり取り組もう、ということです」

 ちなみに、ReBIRDサービスの料金は、リペアセンターでの修理が必要な預かり修理のみ有償で、ほかはケアと再撥水加工を含めて、基本的に無償。さらに、2026年2月5日以降に購入したゴアテックス製品については、10年間にわたり無償で修理が受けられることも付け加えておきたい。

STORM

記事を共有:

寺倉 力

高校時代にワンダーフォーゲル部で登山を始め、大学時代は社会人山岳会でアルパインクライミングを経験。三浦雄一郎が主宰するミウラ・ドルフィンズを経て雑誌「Bravoski」の編集としてフリースキーに30年近く携わる。現在、編集長として「Fall Line」を手がけつつ、フリーランスとして各メディアで活動中。登山誌「PEAKS」では10年以上人物インタビュー連載を続けている。

人気の記事