スペックで比べただけでは見落としてしまう快適さ
文・村石太郎 写真・遠藤 励
素肌を刺すような強い日差しを受けながら、高山の岩稜帯を一歩、また一歩と歩き続けたあとで、ようやく理想的なキャンプ地へと辿り着いた安堵感に満たされる夕刻時。大海原を漕ぎ進み、渡り鳥だけが住処とする無人島に広がる砂浜で、漆黒の闇のなかに浮かびあがる無数の星々を眺めながら過ごす一夜。または、贔屓のキャンプ場へと赴いて、木々に囲まれたいつもの場所で素足になって過ごす、とある休日の昼さがりどき。
こうした至福の時間を過ごすとき、僕の傍らには必ずといっていいほど悪天候下から心身を守ってくれる信頼すべきキャンピング・テントが設営されている。軽さを重視して選んだタープやシェルターで過ごすことも、四方が囲われたテントで過ごす夜とは、ひと味も、ふた味も異なる魅力がある。それに自分の経験と技量を駆使して一夜を凌ぐという面白みも否定はしない。
それでも、ひっきりなしに降り続く雨、晩秋の夜空を騒がせる寒風。こうした悪天候下でも室内で過ごせば深い安心感に包まれる。そのような気分になれることこそが、いつも僕がテントを持っていく理由なのである。
今春、MSRから登場した「ハバハバHD」は、こうした願望をかなえる理想的な3シーズンテントである。心地よさそうな木陰を見つけてテント本体を広げ、四隅をペグダウンすると真っ赤なテントポールをカチャカチャと組み立てていく。右手で本体のクリップを持ち上げて、左手に持ったポールに吊り下げていくと生地にテンションが掛かって立ち上がっていく。
自分の寝床ができあがっていく、この時間がたまらなく好きなのである。使い慣れたテントは、荒野のなかであっても、馴染みのキャンプ場であっても、まるで自宅で過ごしているかのような空間を生み出してくれる。テント生活で深い安心感が得られるのは、こうした要素も影響しているのであろう。
最後はレインフライを被せて、状況に応じたガイラインを張れば設営完了である。バックパックから寝袋やマットレスを取り出して、テント室内へと放り込む。このときに気がつくのが、従来モデルに比べて広くなった出入り口の使いやすさと開放感である。わずかな改良点と感じるかもしれないけれど、一日に何度も出入りしたり、荷物を取り出したりしていると生地が背中や肩にあたる軽い不快感、とくに降雨時に雨が飛び散るストレスが軽減されることがわかる。
室内に入ると、側面の立ち上がりが垂直になっていることがわかる。ヘッドクリアランスも大幅に改善されており、室内面積が広くなったことも加わって就寝時に頭部まわりに感じる窮屈感も軽減されている。テントフレームをつなぐハブディスクの位置も変更されており、手で直接テントをひしゃげるように力を加えると分かるのだけれど、剛性感が向上していて強風下での安心感も高まった。本体素材はリップストップ・ナイロン製となっていて、あたたかな室内の空気を逃しにくく、レインフライの裏側にたまった夜露がしたたり落ちるのを防いでくれるため、日本の山岳地域でも使いやすいであろう。
夫婦やカップルなど、ふたりでの使用が前提であれば2人用の一択であるけれど、悩ましいのがソロでの野営時であろう。ハバハバ・シリーズの前モデル「ハバハバ・シールド1」との比較では、天井と短辺が約50㎜ずつ、長辺方向には80㎜も面積が広がった。より快適なのは2人用であることは間違いないのだけれど、これだけ余裕があれば1人用の「ハバハバHD1」でも充分に快適だ。そう、僕は考えはじめている。
また、メッシュモデルの「ハバハバLT」と最小重量を比べると、2人用で約250gの増加となる。これは、居住性や耐候性の向上を考慮すると微増と表現できる範囲であろう。スペックで比較すると見劣りするかもしれないけれど、それだけでは見落としてしまうような利点が多いテントなのである。
より困難な状況下での安心感をもたらす作り込み
積雪期を除く3シーズンに適したバックパッキングテント「ハバハバ」シリーズに新たなラインナップが加わった。軽さと通気性を前面に押し出し、夏山縦走やスルーハイキングに最適な「ハバハバLT」に加えて、日本の山岳環境にも最適な「ハバハバ・シールド」の後継モデルとして登場したのが「ハバハバHD」シリーズである。モデル名につくHDとは「Heavy Duty(ヘビーデューティー)」を略したものであり、より困難な状況下での安心感をもたらす耐久性や耐候性を重視した構造や素材を採用したことに由来する。
注目すべき機能としては、テント生地の織り密度を高めることで引き裂き強度のほか、摩耗耐久性を向上させていることがあげられる。テントフロアについても、近年主流となっている20Dの極薄生地ではなくて、より耐久性を考慮した30Dリップストップ・ナイロンを採用しているところも注目に値する。この変更によって、テントフロアの下に敷いて、鋭角な石や木の枝などで穴を開けてしまわないようにするための“フットプリント”を使用せずとも生地をひどく痛めることがない、安心感が得られるであろう。

ハバハバシールドとの違い
写真左のハバハバHDは側面が高い位置まで立ち上がり、より良好な室内空間とヘッドクリアランスが保たれている。耐風性についても、複合素材でできたテントポールを用いるハバハバ・シールドと同等の性能を確保する。
織り密度も高め、既存モデルと比べると3倍以上となる6,000㎜の耐水性を確保することにつながっている。長時間にわたる降雨時でも、より確実な防水性を発揮するなど見た目だけでは分からない改良が加えられているのである。ちなみにレインフライの生地については、既存モデルと同様の20D素材だが、こちらも織り密度を高めて従来比2倍以上の耐水性を確保することとなっている。
軽さを極端に追い求めるのではなく、安心感と快適さを優先することでテント泊の満足感を高める。ハバハバHDも、ハバハバLTにおいても、そんな価値観を優先した“バックパッキング・コンフォート”をコンセプトとしている。あらゆるアウトドアギアが驚異的な軽量化を遂げたことで、荷物をパッキングしたときの総重量も軽減された。そうした現代においては、なによりも軽さを競ったテント選びの必要性も薄らいでいるのではなかろうか。悪天候下でも心身ともに休養させて、翌日の活力を生み出す。そのためのテントとして、ハバハバHDシリーズを選択肢に加えてはいかがだろう。


1人用or2人用どっち
ソロでの野営を考えるとき、軽さや収納サイズを重視して1人用テントを選ぶのか、それとも居住性を考慮して2人用テントにするのかという選択は、いつも頭を悩ませる難問である。横幅約810㎜となったハバハバHD1は、大人ひとりが横になっても充分な荷物スペースを確保する。ハバハバHD2になれば、さらなる余裕が生まれる。悪天候が予想されるときも厭わず野営を行うというユーザーにとって、2人用モデルは停滞を考慮したときの最有力候補となるであろう。
居住性
ハバハバHDシリーズにおいて、もっとも嬉しいことは優れた居住性である。車座になったときも頭部が天井に当たらず、悪天候下での停滞、着替えをするときなどのストレスが大幅に軽減される。収納ポケットなどの使い勝手も素晴らしい。


パッキング
もうひとつ、ハバハバHDシリーズの改良点で取り上げておきたいのは、とても使い勝手のよい収納袋である。開口部が広くなって出し入れがしやすくて、ストラップを引いて空気を抜けば、バックパックのなかで無駄なく収納できる。


ハバハバHD
HD(ヘビーデューティー)の名のとおり、風雨などに見舞われる状況でも安心して過ごすことができるよう耐風強度や防水性能を向上させた高耐候性モデル。冷気や風雨の侵入を抑制するためメッシュ部分を少なくしながら、広い室内空間を確保している。








