新潟・三条発 新ブランド SHŪHŌ|誕生&「NEST」リリース秘話

使う時間をやさしく包む
現場の声から生まれた道具

文・福瀧智子 写真・山本 智

“ちょうどいい”を満たす道具が欲しかった

 山の上でも、温かいものをきちんと食べたい。夏山では、冷たい飲み物を冷たいまま飲みたい。その一方で、荷物は軽く、できるだけシンプルでありたい。

 登山を続けていれば、誰もが一度は感じるこの小さなジレンマ。それは決して命に関わる話ではないけれど、山で過ごす時間の質へ、静かに、しかし確実に影響するものだ。ほんの数分の休憩や、ひと口の食事の印象が、その日の山行全体の記憶を左右してしまうことだってある。

「でも、その“ちょうどいい”を満たす道具って、意外とないんですよ」

 そう話すのは、SHŪHŌ(シューホー)のブランド立ち上げと、初代プロダクトであるNESTシリーズの企画・開発を中心となって担った、アウトドア用品の輸入代理店「モチヅキ」の西脇将美だ。

 西脇自身、若かりしころはバックパッカーとして世界各地を旅し、地元である新潟の山を軸に、夏山も冬山も、そしてスノーボーダーとしてバックカントリーも楽しんできたフィールドユーザーである。旅先での簡素な食事や、厳しい自然環境の中での行動経験は、のちに道具について考えるうえでの感覚の土台になっている。

 西脇を中心としたモチヅキのスタッフが手がけたからこそ、NESTシリーズは会議室の机上で生まれたプロダクトではないことは明白だ。それぞれが、長年フィールドで感じ続けてきた「これがあったらいいのに」という実感を持ち寄り、試し、悩み、検証しながら、時間をかけて形を成していったこだわりの道具なのである。

「専用品」ではなく、「使い続けられるもの」

 西脇たちスタッフが、ネストの構想を温め始めたきっかけは、意外なほど素朴なものだった。

「山で使える、ちゃんとしたソフトクーラーが欲しかったんです」

 かつて海外ブランドのパデッドケースを使い、レンズを入れたり、ビールを数本入れて山に持ち込んだりしていたという。それはそれで便利だったが、色や形、保冷力、サイズ感など、使うたびにどこかに必ず“違う”という感覚が生じていた。

「国内ブランドの保温ケースもあります。でも、保冷力は正直そこまで高くないし、ちょっとかさ張る。ロールトップ型の簡易クーラーもありますが、“冷やす”という意味ではどうしても物足りない。山用のソフトクーラーって、ありそうでじつはなかったんです」

 一方で、大げさなクーラーバッグを山に持ち込むほどではない。ジッパーが多く、いかにも“クーラー然”としたものも、行動中の道具としてはしっくりこなかった。

「欲しかったのは、もっと柔らかくて、気軽に使えて、でもちゃんと効果のあるもの。専用品というより、“道具の延長”みたいな存在でした」

 この「延長」という感覚こそが、NESTシリーズのすべての起点になっている。特別なときだけ取り出すギアではなく、気づけばいつもザックの中に入っている。そんな存在を目指していた。

プロダクトが先にあり、ブランドはあとから生まれた

 NESTシリーズは、最初から「SHŪHŌ」というブランドのために企画されたわけではない。むしろ逆で、まず「これを作りたい」という具体的なプロダクトの構想があり、その後に、それを受け止めるためのブランドの輪郭が整えられていった。

「これは僕らが扱うMSRでもないし、既存のどのブランドにも当てはまらない。だったら、ちゃんとオリジナルとして出そう、という話になったんです」

 そうして立ち上がったのが、SHŪHŌという新しいブランドだ。

 SHŪHŌという名は、株式会社モチヅキの創業者・望月力が、昭和16年に結成した「秀峰山岳会」に由来する。戦前から戦後にかけての混乱期、望月は精神論や根性論ではなく、近代アルピニズムを掲げ、合理性と実地検証を重んじた山岳活動を行っていた。

 当時としてはまだめずらしかった近代的な装備や技術を積極的に取り入れ、机上の理論ではなく、厳しいフィールドでの実践を通して確かめていく。その姿勢は、単なる山岳会の枠を超え、のちのモチヅキのものづくりの思想へとつながっていく。

 1950年、登山家でもあった望月は、市販ギアへの不満から、町の鍛冶職人とともにハーケンを共同開発する。日々、刃物や金属と向きあう職人たちが暮らす三条の街には、山での実感をそのまま道具へと落とし込める土壌があった。

「フィールドで感じた違和感を、自分たちの手で解決する」。

 この姿勢が、その後の株式会社モチヅキの原点となり、輸入代理店として海外ブランドを扱う現在に至っても、「どの道具を選び、どうユーザーに届けるか」という判断基準として受け継がれている。

「NESTも、まさにその流れの中にあると思っています。現場で感じた『足りない』を、そのままにしない。SHŪHŌは、そのためのブランドと言えます」

 そしてSHŪHŌのロゴデザインにも、このブランドの成り立ちと姿勢は表れている。強い主張や装飾性を前面に出すのではなく、道具そのものの存在を引き立てることを意図し、女性デザイナーがロゴデザインを手がけた。山の稜線など、自然やフィールドを思わせる丸みや柔らかさを生かした佇まいは、長く使われる道具の一部として自然に寄り添ってくれる。

登山の食事シーンに寄りそう、新しいコジーのかたち。温かいものを温かいまま、行動の合間に無理なく味わえる道具だ。
登山の食事シーンに寄りそう、新しいコジーのかたち。温かいものを温かいまま、行動の合間に無理なく味わえる道具だ。

見つめ直した“包む”という行為

 “巣”の意味を持つNESTには、「包む」「覆う」「守る」という発想が込められている。それは単なるネーミングではなく、プロダクトの設計思想そのものだ。

 ジッパーで密閉するのではなく、ロールして包む。大きなバックルで固定するのではなく、柔らかく受け止める。中身を“閉じ込める”のではなく、“守りながら持ち運ぶ”。そのひとつひとつの選択が、使う場面を具体的に想像した結果でもある。

 素材に選ばれたのは、住宅建材としても使われる遮熱性の高いタイベック®シルバーと、薄くても高い断熱性を持つ中綿素材3M™シンサレート™だ。赤外線を反射し、内部の熱を逃しにくい特性は、保温にも保冷にも効果を発揮する。

「ダウンみたいにかさ張らないのに、ちゃんと効く。しかも耐久性が高い。山だけじゃなく、日常でもガンガン使えると思える素材でした」

 銀色の素材は一見すると尖って見えるが、実際の使い心地は驚くほど柔らかい。手に取ると、その軽さとしなやかさに拍子抜けするほどで、“クーラー然”としすぎない佇まいも、道具として生活に溶け込むために欠かせない要素となっている。

マルチネストスモール
マルチネストレギュラー
ロングネストスモール
ロングネストレギュラー
フードネストレギュラー
フードネストスモール

山と日常を、切り分けない使い方

 NESTシリーズは、用途を限定しない。

 フードネストは、山での温かい食事のために、既存のドライフードのパッケージを想定したサイズ感にすることで、入れ替えや詰め替えの手間なく、そのまま使うことを前提に設計されている。

 マルチネストは、ビールや食材の保冷だけでなく、凍らせた肉や魚を山に担ぎ上げるときにも頼りになる。テント場で取り出せば、歓声があがる場面が目に浮かぶほどだ。もちろんモバイルバッテリーやカメラレンズの保護にも使える。

 ロングネストは、ソフトボトルやハイドレーション、さらには酒瓶まで包み込む。手作りした工芸品の納品に使ってもいい。このようにNESTはユーザーの発想に応じて、想像以上の使い道が見えてくる。

 西脇自身、冬山では用途別にふたつ持つこともあるという。ひとつは食事用、もうひとつは保冷・保護用。夏は日帰り登山や移動の合間、新幹線で飲む一本のために使うこともある。

「山と日常を切り分けたくなかったんです。山に行く人の生活って、案外そのまま日常とつながっているから」

 それは、アウトドアとライフスタイルを無理に線引きしない、SHŪHŌの姿勢そのものでもある。

ブランド誕生の最初の一歩としての「NEST」

 SHŪHŌの初代プロダクトとして、ネストはもっとも象徴的な存在だった。生きるための道具ではないが、山での時間を心地よく整えてくれるもの。フィールドテストを繰り返し、厳しい状況で使えるものに仕上げたからこそ、日常での安心感につながっている。その両立こそが、SHŪHŌが最初に示したかった価値であり、モチヅキが長年大切にしてきたものづくりの姿勢なのではないだろうか。

 次のページからは、用途やサイズごとに展開されるNESTシリーズを、具体的に紹介していく。フィールドで拾い上げられた声を起点に、丁寧に形にされた道具たちが、山でも日常でも役割を果たしてくれる。

フードネストスモール

12.5×19㎝のNEST最小モデル。側面に取っ手を備え、指を通すことで食事中に取り落とす心配も軽減。
面ファスナーで上から覆うフラップタイプのフタ付き。スマホやコンパクトカメラなどを守る緩衝材としても便利

価格:¥3,080
サイズ:125 × 190㎜
容量:約0.7L 
重量:26g
素材:タイベック®シルバー 、3M™シンサレート™

「フードネスト スモール」は、ジップロックのフリーザーバッグSサイズや、尾西食品・サタケなどのアルファ化米が美しく収まるサイズ感。お湯を注ぎ入れたらそのままネストへ。詰め替えの手間なく使え、温かい食事の時間をスマートに支えてくれる。

フードネストレギュラー

13.5×20.5㎝のサイズ感。食事量の多い男性に適したサイズともいえる。容量が1Lとスモールより余裕があり、ヘッドランプやLEDライト、モバイルバッテリーなど、モチヅキスタッフも実際に持ち運びで活用している。

価格:¥3,410
サイズ:135 × 205㎜
容量:約1.0L
重量:30g
素材:タイベック®シルバー 、3M™シンサレート™

スモールよりひと回り大きな「フードネスト レギュラー」。トレイルそばやモンベルのリゾッタ、スモールツイストなどパッケージが大振りのトレイルフードに対応。スモールでは少し心もとないと感じる場面でも、余裕をもって食品を包むことができる。

マルチネストスモール

スモールは19.5×26.5㎝の大きさで、350ml缶なら無理なく3本入る。フラップ式のフタ、サイドにはフックを備え、サコッシュのように肩から提げて持ち運ぶことも。行動中にも扱いやすいモデルとして設計されている。

価格:¥4,290
サイズ:195 × 265㎜
容量:約2.5L
重量:58g
素材:タイベック®シルバー
   3M™シンサレート™

フードネストをサイズアップしたタイプが「マルチネスト スモール」。凍らせた肉やパッケージのままのソーセージ、ニンジンやピーマンといった小~中型の野菜が複数個収まる。食材保冷はもちろん、1段のお弁当箱を保冷剤と一緒に持ち運ぶ用途にも活躍。

マルチネストレギュラー

350ml缶が6本収まる充実のスペースを確保し、塊肉や大ぶりの食材の収納もお手のもの。ドライブ先での“産地直送”立ち寄りなど、車に備えておけば心強い存在。開口部を丸めてしっかり閉じれば、保冷力も持続

価格:¥4,950
サイズ:260 × 310㎜
容量:約4.5L
重量:84g
素材:タイベック®シルバー
   3M™シンサレート™

ロールトップ式の開口部を備え、内容に応じてしっかり圧縮できる「マルチネスト レギュラー」。容量はブロッコリーやリンゴなど厚みのある食材も無理なく収まる3.8L。2段式のお弁当箱を水平に保って入れられ、山だけでなく通勤やイベントにも役立つ。

ロングネストスモール

750mlのワインボトルや日本酒の四合瓶にも対応する31×17㎝サイズ。クッション性の高い構造により、割れやすいボトル類も安心感をもって持ち運べ、贈呈品の持ち運びにも向いている。デイパックにも収まりやすく、日常でも取り回しやすい。

価格:¥3,850
サイズ:310 × 170㎜
容量:約2.2L
重量:54g
素材:タイベック®シルバー
   3M™シンサレート™

「ロングネスト スモール」は、ナルゲンボトルやビール中瓶、一般的な750mlのワインボトル、日本酒の四合瓶1本が収まるサイズ感。プラティパスの1Lソフトボトルを入れて、ハイドレーション用スリーブとして使えば、冷え込む雪山での凍結防止としても役立つ。

ロングネストレギュラー

500ml缶が4本(縦に2本×2)、ワインボトルや四合瓶なら2本収まる37×22.5㎝の大容量サイズ。新鮮な丸魚や精肉店の塊肉、クラフトビールのボトル数本を手にして友人宅を訪ねるなど、ちょっとした集まりの手土産バッグとしても頼りになる存在。

価格:¥4,510
サイズ:370 × 225㎜
容量:約4.2L
重量:74g
素材:タイベック®シルバー
   3M™シンサレート™

「ロングネスト レギュラー」は、プラティパスの2Lソフトボトルや、日本酒の四合瓶(ワインはフルボトル)に対応。断熱性を生かして、雪中泊の水の凍結防止はもちろん、熱湯を注いだボトルの保温、湯たんぽ代わりとして使ってみてもよい。
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福瀧智子

フリーランスの編集ライター。登山やバックカントリー、シーカヤックによる海旅、野外フェスなど、日本の風土が育むフィールドを横断的に体験し、その価値をコンテンツに落とし込む。女性向けアウトドア雑誌『ランドネ』創刊時の外部編集長として女性のアウトドアスタイルを提示。Webメディア『Akimama』発起人。フジロックフェスティバルなど野外イベントの制作にも関わる。現在は子どもとともにフィールドに立ち、自然体験が身体や思考に与える影響を、実体験と科学的根拠の双方から探究している。関心は、自然と人間の関係性、食文化、風土に根ざした旅。京都出身、逗子在住。

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