開発者に聞く
パラゴン・バインディングへアップデートした背景
『安心感と使い心地はそのままに、より簡単な脱ぎ履きを可能にしました。』
安心感のあったバインディングをリニューアルした意図は?
これまでのストラップシステムは機能性、信頼性も高く、ユーザーからの支持も大きいギアでした。ですが北米、ヨーロッパなどでは、レクリエーションやマウンテニアリングにおけるストラップシステムの脱ぎ履きが、たとえ安心感があったとしても、非常に手間のかかる作業と捉えられることもありました。安心感と使い心地を犠牲にすることなく、その手間をどれだけ簡単にすることができるか? それが今回のデザイン変更における最大のポイントです。
スノーボード・ギアという認識の強い日本は、世界的には希なケースなんでしょうか?
日本は世界的にも特別なスノーシューの使い方をしています。北米、ヨーロッパ、特にスイスではスノーシューの使い方は多様化していて、特にアッセントシリーズはハードなマウンテニアリングに使われることが多いです。世界の名峰を制覇することを目的とした“ピーク・バガー”と呼ばれるクライマーやアルピニスト、マウンテニアラーから絶大な支持を受けています。
双方のユーザーを満足させるバインディング開発は難しいのでは?
根本的な部分に目を向けると、クランポンという機能を必要とするうえではどちらも非常に似ています。マウンテニアリングでもスノーボーディングでも、目標へ辿り着くまでのテレインは同じだと思っていますから。大きな違いはスノーシューを使って降りるか、そうでないかという点だけです。ただし、使用するブーツのサイズ感が大きく違います。ここが難しい点です。その双方ともにフィットする幅広い調整が可能で、かつ、これまでよりも簡単な脱ぎ履きを実現するというテーマですから。
パラゴン・バインディングはそれを実現できたということですか?
以前のストラップシステムでは足の位置を決めるのが少し難しかったですよね? 新しいデザインでは、ブーツをバインディングの奥まで入れ込むだけで、スノーシューのパフォーマンスを最大限発揮するポジションに固定できます。フィールドでストラップの締め付け作業だけに集中すれば良くなったんです。またメッシュ構造はスノーボードブーツや他のフットウエア全体を包み込み、足への部分的な圧迫感を取り除く。まるでグローブをはめたようなフィット感を得られるのも特徴です。
それでいて、安心感と使い心地に変わりはないと?
そのとおりです。メッシュストラップ、ヒールストラップ、そしてバインディングベースで構成されていますが、ウレタン製のメッシュストラップとヒールストラップはMSRのラボと山でのテストを繰り返し、軽さ、耐久性、そして低温での性能に優れていることを確信しました。とくにメッシュストラップに関しては我々が求める性能を完璧なまでに満たしてくれています。
バインディングベースの構造も新しくなりましたね?
バインディングベースもウレタン製で、ステンレス製のスパインフレームを内蔵しています。メッシュストラップへの変更に伴い、ブーツのソールと接するエリアだけに硬いフレックスを与え全体の構造を確実に支えています。前述した、スノーシューのパフォーマンスを最大限発揮するポジションにブーツを固定できる特徴と合わせ、クランポンを効率的にコントロールする最高のフィットを実現しています。
Steve Schwennsen(スティーブ・シュウェンセン) :
シアトルに本社を構える「カスケードデザイン」でMSRのプロダクトデザインを担当。大学でメカニカルエンジニアリングを専攻後、航空宇宙業界で油圧式ランディングギアのデザインに従事。最大の趣味であるサーフィン、スノーボードを中心としたアウトドアスポーツへの情熱からカスケードデザインへ移籍し現在へと至る。
Photo: Tomoki Fuse