「雪山滑走」とひと言で表しても、人それぞれの向き合い方や楽しみ方がある。「流派」が違うのだ。山奥でその流派の違いを痛感することになった、スノーボードフォトグラファーの体験談。
文・写真 / 原田 岳
この景色を見るのは何度目だろうか。滑りたい斜面はすぐそこにあるのに、ドロップポイントまで行かせてもらえない。ヒリヒリした空気の中、ロープで確保しないかぎり行く気になれない様な場所に僕らは立っていた。
しっかりとしたマウンテニアリングの装備で臨めばサクッと行ける場所。でも、撮影のために滑りのパフォーマンスを優先した軽装備の僕らにとってはただの行き止まり。ドロップポイントはその難関の先にある。
毎年のように自分越えを果たして少しずつ核心部へ近づいてきたけれど、やっぱりこの先はダメなのか。隣にいるスノーボーダーの吉田勇童はそんな顔をしていた。
「ハーネスにロープ、ついでにアックス……」と儚い現実を噛みしめつつ、スノーシューの刃がしっかり掛かっているのを確かめながら、荷物をデポした八海山八ツ峰の最初のピーク、地蔵岳の基部まで戻った。
「当初の予定通り、南面を滑り落としてからトラバースして、さっき引き返したポイントまで登り返すことにしよう」 その提案にクルーも納得してくれた。
実はこの日、二人の先行者がいた。足跡を見るかぎりスキーとスプリットボード。行き止まり、地蔵岳の基部へ戻るまでは同じ動きをしていた様子だ。
ところが、そこからのラインが見当たらない。「どこへ行ったんだ?」と不思議には思ったが、吉田ともう一人のスノーボーダー橋本貴興は、すでに目の前に広がる、これから滑り込む斜面の確認に集中していた。
スノーボーダーにとっては魅力でしかない沢地形のつづく斜面を堪能してから、ロックバンドの下をトラバースして登り返す。そうすれば本来の目的地であるドロップポイントへ到達できる。一見すると遠回りのようだが、安全面においても、目前の誘惑に従うためにも、僕らにとっての最善ルートといえるだろう。