BACKCOUNTRY RESEARCH

MSR x CHICKA スノーシューツアー in 越後湯沢

文・飯田 千香子
写真・二木 亜矢子

2月に開催した「MSRスノーシューツアー in 越後湯沢」を、ツアーガイドを務めたCHICKAこと飯田 千香子によるレポートでお届けします。彼女が開催するツアーならではの、穏やかで豊かな1日の追体験をぜひ!

身近にある雪山が冬の遊び場

 冬になり森に雪が積もりはじめると、スノーシューやスプリットボードを履いて森にでかける。雪国で暮らす私にとって、近所の雪山で遊ぶのは冬の日常だ。

 昨今、雪山で遊びたい人が急増しているのか、スノーシューハイキングの問い合わせが増えている。湯治のついでにちょっと雪山を散歩したい方や、スキーやスノーボードはしないけれど冬も雪山で遊びたい方、日本の雪景色を見たいインバウンドの皆さんなど、そのニーズは幅広い。

 今回のMSRとのコラボツアーに参加された皆さんは、雪山ハイキングが初体験な方、しばらく離れていたバックカントリーライディングを再開するきっかけとして参加された方、景色を眺めながら雪山をのんびり楽しみたい方など三者三様。多様なメンバー構成であっても、スノーシューハイキングなら、みんなで雪山を楽しむことができる。

 山は苦しいだけじゃない。ピークハントが目的の雪山登山や、滑走主体のバックカントリーよりも、もっとゆるくて穏やかに、雪の森でのんびり過ごす時間も、山遊びの醍醐味のひとつなのだ。

樹木や雪を観察しながら、森の解説をしていく

雪の森と生き物たちのささやき

 森の入り口で準備を整えていざ出発。深く積もった雪をスノーシューで踏み締めながら、森の奥地へと歩を進めていく。冬の間、多くの樹木や植物は雪に覆われるため、森の見通しは夏よりも各段に良くなる。光が注ぐ真っ白な森の様相や遠くに見える稜線など、見るものすべてが美しい。

 雪の森を歩いていると、雪面についた無数の動物たちの足跡をみかける。森で暮らすノウサギやニホンカモシカ、キツネやリスたちのものだ。この日はノウサギの足跡をあちこちで発見した。どっちに向かって移動したのか、走っていたのか歩いていたのか、巣はどこにあるか、食事をしていたのかなど、足跡からさまざまな想像を働かせることができる。

 基本的にノウサギは夜行性なのだが、よく晴れた日はツリーホールから、ぴょんと出てくることもある。森で野生動物に会えた日はラッキーデイだ。

 足跡のほか、樹木の冬芽の観察や食痕、秋に熊が食事をした跡(熊棚)など、動物たちの森での暮らしを垣間みることができる。私たちのすぐ側の雪山で暮らす生き物たち。静かな森から聞こえてくる彼らの息遣いを感じながら、山におじゃまさせてもらっている謙虚な気持ちを忘れずにいたい。

円卓を囲んでお待ちかねのランチタイム!

 みんなのお楽しみ、雪上のランチタイム。まずは、ランチに良さそうな場所を探してメンバーみんなで基地づくりをおこなう。目星の場所がみつかったら、雪面に設計図を描いて、スコップで雪のテーブルと椅子を切り出していく。みんなで作業をするとあっという間に快適なカフェスペースができあがった。

 ランチボックスは、地元レストランのシェフが地元の食材を使用して毎朝作ってくれている。自分たちで作った雪のテーブルを囲んでいただくランチに舌鼓しながら、みんな自然と笑顔が溢れ、会話が弾む。MSRのストーブでおいしいお茶も入れていただき、デザートとともに、フルコースでランチタイムを満喫した。はじめて顔を合わせるメンバーがほとんどだったが、こうして山時間を共有することで、だんだんと互いの距離も縮んでいく。山のマジックはいつだってすばらしい。

 食後は、新雪の斜面を登ったり下ったり、雪山ではちょっとした遊びも、最高に楽しいアトラクションとなる。お天気もよくまだまだ遊んでいたいところだったが、また次回のお楽しみとして帰路についた。

森歩きの後は小屋で夕食会

 森歩きと温泉を堪能したあとは、ガイドの秘密基地で夕食会。私のツアーでは、ガイドの基地となっている麓のハットで、時々お客様たちと夕食会をおこなっている。地元のおいしい食材を使用し、ガイドがその日の気分で料理を出していく。お料理とお酒をいただきながら、その日山で過ごした思い出を肴に、わいわいみんなで語り合う。

 ランチタイムを経てみんなの距離は縮んでいるが、夕食会では更に縮んでいく。ツアーをきっかけにお客様同士が仲良くなり、ガイド抜きで山に行っていることもしばしばあるそうだが、それも大歓迎。皆さんの山の経験値が上がり、また次のステップに一緒に挑戦できるのであればガイド冥利につきるというもの。

 この夕食会には、同じ釜の飯を食べる、たまにあう家族のような、特別な時間が流れている。

 小屋は、80年ほど前の古い納屋を3年ほどかけてリノベーションした。古材がふんだんに使われていることもあり居心地が良いと好評だ。冬はペレットストーブに火を灯し、夏は小屋に隣接する広大な畑でつくっている野菜を使って料理をしている。常連さんの中には、小屋の夕食会も楽しみに来てくださる方も少なくない。山とセットでぜひ一度訪れていただきたい。

【プロフィール】

飯田 千香子 CHIKAKO IIDA  

東京都大田区出身/新潟県南魚沼郡湯沢町在住

3歳よりスキーをはじめ、10代後半よりニュージーランドや北米、ヨーロッパなど国内外での雪山滑走を体現。ライフワークは、世界中の雪山と海を旅すること。現在は、日本山岳ガイド協会の国際ハイキング(UIMLA)担当理事としても、国内外で広く活動中。

主宰するオフィスチッカでは、南魚沼をベースに年間を通して山のガイドツアーを開催中。詳しくはチッカサイトまで。https://www.officechicka.net/

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