ハンモックディーラーズミーティング in 北八ヶ岳双子池

文・寺倉力
写真・山本智

誰もが知っているようでいて、実はあまりよくわかっていないのがハンモックの楽しみ方。

アウトドアギアとしては非常にニッチな、けれども可能性に満ちたハンモックの魅力を伝える1泊2日のイベントをレポートする。

 2024年秋、北八ヶ岳双子池にはハンモックを取り扱うコアなアウトドアショップの面々が集まっていた。目的はハンモックブランド「チケット トゥ ザ ムーン(以下、TTTM)」のディーラーズミーティングに参加するためである。

 言うまでもなく、ハンモックは子どもでも知っている人気アイテムである。だが、ハンモックが一つあったら楽しいだろうなと思う人でも、アウトドアでどう使うかという具体的なイメージについては意外に希薄だ。キャンプ場で見かける機会はあるが、それはあくまでテントやタープがあったうえでのリラクゼーションアイテムか、子どもの遊び道具としての位置づけがほとんどだ。

 一方で、アウトドア用ハンモックはミニマムな野営道具として使われてきたニッチな歴史がある。軽量コンパクトで、設営と撤収が容易。立木さえあれば傾斜地でも荒れ地でも快適に眠れるという泊地選びの自由度の高さは、自力で長い旅をするハイカーやバイクパッカーには大きなメリットだった。また、ハンモックを使ったロングディスタンスハイクが盛んなアメリカでは、テントやタープ泊に比べて自然に対してローインパクトな点でも注目度は高いという。

 今回の主役、TTTMは「旅人が旅人のために作る」ことを理念に掲げたハンモック専門ブランドである。「月へのチケット」という旅心あふれるブランド名の通り、どのモデルもあらゆる環境下での快適な寝心地を追求している。そして今回のディーラーズミーティングでは、森のなかに張られたハンモックで一晩泊まってみようという非常に実践的な企画が用意されていた。

 プレゼンターは(株)モチヅキの西脇将美さんと、メディアやイベントでハンモックハイキングを提唱している二宮勇太郎さんの二人。西脇さんはその快適な寝心地から、ここ数年は自宅でも毎晩ハンモックで就寝しているという猛者。二宮さんはアウトドアショップ「ハイカーズデポ」の元店長で、アメリカで一か月半以上のハンモック泊経験を通してハンモックの可能性と限界を知り、その成果を『ハンモックハイキング』という自著に著している。そんな二人のプレゼンテーションだけに充実度はより一層だった。

 まずは並んで張られた二つのハンモックを取り囲むように話は始まった。TTTMのラインナップで最もスタンダードな「オリジナルハンモック」と「コンパクトハンモック」。いずれも強度の高いパラシュートナイロンを使ったモデルで、1万円を大きく下回る価格帯も魅力だ。違いは横幅で、オリジナルハンモックが長さ300㎝で横幅200㎝なのに対して、コンパクトハンモックは同じ長さで横幅155㎝とシェイプされている。

「選ぶときは、この横幅というものが重要で、ゆったりしているかどうかの決め手になります。ただし、大きければ快適かといえば、これもまた別の話で……」と西脇さん。幅がありすぎると、長時間寝たときにサイド部の余った生地が顔を覆って不快に感じることがあるそうだ。これには説明が必要だろう。

 基本的にハンモックは斜めに寝るもの、ということをご存じだろうか。ハンモックの全長方向に素直に横たわると全身の屈曲が強くなり、長時間寝ると腰に負担がかかる。そこで体を斜めにずらして、背中から腰のアールをゆるやかにする。これが快眠に導くセオリーだ。

 横幅の話はラインナップ中で最軽量という「ライテストハンモック」でも話題に上がった。このモデルは重量わずか228gで、ケースに収納すれば手のひらに乗るほどコンパクトになるから、どんな旅に持っていっても負担はない。それでも140㎝幅をキープしている点が特長的だと二宮さんは言う。

「宿泊用のハンモックはだいたい140から150㎝以上の幅に設定されています。一方、超軽量モデルのなかには120㎝幅のものもあります。そのなかでTTTM製品は軽さを追求しつつも、絶対に譲れない寝心地へのこだわりが現れている。そんなブランドなんですよね」

より自然に溶け込むように眠る道具

会場は北八ヶ岳双子池に常設されているハンモックサイト。テントの張れない傾斜地でもハンモックなら問題なし。宿泊サイトが6張と3張のデイサイト。いずれも要予約だ

これが2024年発売の「マットハンモックオリジナル」。底部にマットレスポケットが斜めに配置されているため、常にベストポジションで快眠することができる(タープは別売り)

 続いて防虫ネット付きの「ライテストハンモックプロ」。上部がメッシュで覆われているだけで安心感は大きく、ハンモック泊に慣れない人にはお勧め。ただし、経験者はヘッドネットで済ませることも多く、メッシュ自体が不要という人もいる。また、ハンモックは生地が薄いから、むしろ、下から刺されることに注意したほうがいいという。

「風があるところは虫が少なく、風がなければ蚊取り線香がよく効く。道具に頼るのではなく、使い方で対処できることも大事です」と二宮さんは言いつつ、「僕はメッシュいらない派ですが、久しぶりに使ってみると、守られている安心感があるのもわかります」と笑う。

 ラストは底部にマットレス用ポケットを設けた「マットハンモックオリジナル」。これは他社に類似モデルのない製品だと西脇さんは言う。

「寒いときはマットレスを敷くのが効果的です。ただし、ハンモックの上ではマットレスがズレやすく、非常に寝心地が悪い。その点、この製品はマットレスを下から差し込むことができ、かつ、最初から斜めに収まるようポケットが縫われている。そこが大きなポイントです」

 ハンモックの寒さ対策としては、冬季用寝袋に入り、アンダーキルトと呼ばれるダウンや化繊中綿入りのカバーでハンモックの下部や全体を覆ってしまうのが一般的だ。だが、暖かいものだと冬季用寝袋くらいのサイズになるから、容量と重量がダブルになるのが悩ましいところ。その点、断熱性の高いマットレスを効果的に使えるこのマットハンモックは注目だと二宮さんはいう。

「僕が思うに、効率のいい冬用システムは、やはり保温性の高い厳冬期用寝袋と断熱性の高いマットレスを併用すること。それが一番手っ取り早く、真冬でもハンモックで眠れるたしかな手です」

 その晩、参加者は思い思いのモデルを選んで一晩を過ごした。筆者はハンモック泊初体験だったが、適度にたわんだ生地に背中が包まれる感覚は窮屈ではなく、体の重みがハンモック全体に吸収されるような感覚で、いつしか自然に眠りについたようだ。夜中にふと目を覚ますと、森には月明かりが差し込み、双子池が黄金色に輝き、これぞまさしくチケット トゥ ザ ムーン。自然のなかで眠るという行為をより深く理解する夜だった。

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