BACKCOUNTRY RESEARCH

冬のうねりを追いかけて

Photo U-ske

冬になるとビッグウェーブが届くハワイ。
長年その波に魅了され、いつかは自分で削ったサーフボードでハワイの波に挑戦したい、という夢を抱くようになった。

そんな想いを持つようになったのは、今から約十数年前。
日本のビッグウェーブ界で師と仰ぐ方に、
「自分の削ったサーフボードで波に乗るって、どんな感じですか?」
と質問すると、返ってきた言葉は一言。

「究極やで」

その瞬間、僕の心の中にあった炎のようなものに火がついた。
それを実現するにはどうすればいいのか――。
そう考え、紙に書き出した日のことを今でもはっきりと覚えている。

「自分が実現したいことは、常に紙に書き出すと良い」
そんな言葉を本で読んだのがきっかけだった。

・自分の削ったサーフボードでハワイの波に乗る
・最良のスポンサーに恵まれている

など、未来形でいくつも書き連ねた。
そして今、それらが現実になっていることに、正直自分でも驚いている。

そして2025年の冬。
ついに、自分の削ったサーフボードで、さまざまなギアをテストしながら波に挑む――
そんな旅に出た。

旅の準備

ハワイでなぜキャンプするのか?

きっかけは新婚旅行で訪れた際、あまりの物価の高さに長期滞在するのが難しい経済状況の僕に、「キャンプすれば安く泊まれるよ」と仲良くなったカリフォルニアの友達に勧められ、それは面白そうだとで張り切った。

実はこの時、人生初キャンプデビュー。約18年前の話。

即席で買ってきたキャンプ道具を前に、妻の前でカッコつけたかった僕は、ろくに火もつけられず、とても恥ずかしい想いをしたのを思い出す。その時「キャンプマスターになりたい」と新たな野望に火がつき、紙に書き出した。

今だに思い描くようなキャンプマスターにはなれてないが、今ではギアのサポートまでしてもらえるようになっている事のが夢のようだ。

2025年1月後半。

日本では多くの雪を降らせ、雪山の滑り手達は羨ましい程のビッグターンを雪山に刻み、大雪を降らせる低気圧をとても喜んでいるようだった。

一方サーファーである僕は、その低気圧がさらに発達して大きな冬のうねりとして届く、ハワイの波に想いを寄せていた。

約5年ぶりのハワイ。

最後に訪れたのがコロナで騒ぎ出した真っ最中だった。その間、足首の骨折というサーファーとして大きな壁にぶつかるという経験を乗り越え、今回はビッグウェーブの為のサーフボードを自ら削り挑む。

十数年前とは違い、家族を持っている親父として、ただ波に乗って帰るというわけにはいかない。

サーフボードのデザインの探求。

キャンプ道具やギア一式のテスト、フィードバック。

自分の本業の造園業につながるガーデンの研究。

そしてそれらを作品として残し、記事にする。

父ちゃんは目的を持って行ってくると子供達に伝え、まるで巡礼に向かうような気持ちで心と身体を整えた。

今回はビッグウェーブに乗るためのサーフボードを、ベニア板でテンプレートを作る事から始めた。

今まで旅をした経験をサーフボードデザインに反映。
水の流れなどを考え、果たしてハワイの波にはうまく機能するだろうか?
乗ってみるまではわからない。
今回はサーフボードの素材にもこだわり、EPSブランクスに桐の2倍の比重がある南九州産の桜の木を使用したストリンガーとした。
サーフボードの素材をカスタムオーダーで製造する地元宮崎のkiriflex社のお陰で、本当に様々なチャレンジをさせていただいている。
今回は桐とカーボンの組み合わせのFinもK drive japanと共同開発。
サーフボードの仕上げはfreedomsurfboardに依頼。
Made in Miyazakiのサーフボード。
そしてさらに前に重心がいくように、ブランクスの中に鉛を入れている。
日本ではあまり前例がない試みなので、これも良いフィードバックになるだろうと、まるでテストパイロットの様な気持ちでもあった。

そんないろんな想いを背負ってたどり着いたこの島は、サーフスポットなどの写真をSNSなどに公開してはならないという暗黙のルールがあるらしく、いまだにそれがローカルの中でも守られているという。

そこが魅力の一つの様にも思える。

地元宮崎にも同じような考えを持つ人達がいるが、そこで生活している人達や、そのポイントを大事に守り続けるローカル達へ配慮した謙虚な気持ちで挑まないといけないと、気を引き締めた。

出発

到着日からは数日、波も風も良くない予報だったので、海ではなく山で静養しようとなり、少しの買い出しを済ませ、これから始まるキャンプ生活に欠かせない火の準備。

もう8年くらい使用しているウィスパーライトインターナショナル。燃料はガソリンなので世界中で使用する事ができ、燃料代も安くつく。長期のキャンプには欠かす事ができない必需品。

予備のボトル1本にガソリンスタンドで燃料を補給し、山へ向かった。

常夏のハワイのイメージだが、山の上はかなり冷え込むので、朝と夜にはダウンが必要。

到着したのが暗くなってからだったので、テントの設営に少し苦戦した。

その日は時差ボケとフライトの疲れもあり、早いうちに眠りについた。

早朝、鳥の美しい泣き声にうっとりしていると、すぐ近くで「コケコッコー」とニワトリの泣き声が。 テントのファスナーを開けると、目の前にいる。

波と風に合わせて、遊牧民みたいにキャンプしながら快適に波乗りができるのも、優れたアウトドアギアのお陰様である。

サーフボード2本にウエットスーツ5種。

そしてテントやタープのギア一式。

今回の旅はバックパッキングの技術も求められた。

今回の相棒 MSR エリクサー2。 長期滞在だったため、軽さよりも生地のタフさを選んだ。 自然に溶け込んだカラーがお気に入り。
到着から2日間は、ゆっくりとハワイのリズムに身体を馴染ませようと、慌てずに身体のケアや道具の整理をして、山の上で過ごした。

到着してから3日目、ようやく風がおさまる予報だったので、山から海へ向かった。

すぐにでも波乗りしたい気持ちを抑えつつ、まずはベーステントを設営する。

ハワイでキャンプするにはパーミット(許可証)が必要で、数年前まではパークレンジャーが見回りにくるタイミングで直接支払いを行えたが、今では全てオンラインで済ませなければならない。

波乗りしている間、テントは無防備になってしまうので、どこでどのように設営するのかが凄く大事な要素になってくる。

全てが自己責任、周囲の状況を観察して慎重に場所を選ぶ。

トラブルをなるだけ避けるためにも、僕は自分のテントの周りを日本から持参した熊手で掃除してから出かけるように心がけた。

日本製熊手が大活躍の大きな木の下でベーステントを設営。

いざ波乗りへ

ようやく準備が整い、サーフボードをハワイの海で初テスト。

初めて入水し、パドリングした時のフィーリングがとても良い!

「これはいける!」と嬉しい直感を得れた。

自分で言うのもなんだが、乗っていて凄く気持ち良いボードで、小波から大波まで、ほとんどこの1本で楽しむ事ができた。

偶然居合わせた写心家のUーskeさんに写真を撮ってもらえて、とてもありがたい。
空板 9’3 ツインザーガン Photo Uーske

4年前に削ったボードは、初入水の時に変な違和感を感じ、最後まで調子が乗って来ず失敗だった。

なぜそう感じたのかを考え、改良して出来上がった今回のボード。

アウトライン、ボトム系形状、フィンのセッティングなど、自分なりの考えと研究が詰まったボードである。

まるで刀の様なサーフボードで、初日1本目から良い波に乗れ、幸先の良いスタート。

ここまで来れたことに、改めて感謝の気持ちが湧き起こる。

楽しい波乗りの後は、ベースキャンプに戻り、食事の用意をする。

今回は長期滞在のため、食料の保存をいかにするかが自分の中でテーマであった。

ICE MULE COOLERS。バッグの外側に空気を入れて断熱し温度をキープしてくれる優れもの。
冷凍のお肉だったら次の日の夕飯まで保存が可能だった。
冷蔵庫のない環境は様々な事が 当たり前ではないんだということにも気づけた気がする。
地元のアボガドとチキンでランチ
一人きりの夜もUCOのキャンドルとソーラーランタン キャリー・ザ・サンがあると不思議と寂しさが和らぐ気がした。
photo Uーske
UCOのフラットグリル、コンパクトながらしっかり調理もできてご飯を炊きながらお肉を焼ける。
小さな薪で済むのでサクッと調理したい時も大活躍だった。
焚き火したり、ガソリンバーナーで調理したりと生活の知恵を考え直せるのも楽しい

ハワイの波は美しさと危険が隣り合わせにあり、無理をしてしまうと命に関わる様な事になるので、自分のリズムをしっかりと整えて海へ向かった。

朝起きて1~2時間身体をほぐして、ジンクスのようにテントの周りを掃き掃除。

セキュリティにも良いし、掃除をして波乗りに行くと、不思議と良い波に乗れる。

逆に波の良い日に気が急いで掃除を怠ると、リズムが合わず良くない結果になる事も。

掃除が心を落ち着かせるのにとても役に立つと実感する日々だった。

円安、物価高の2025年に、1ヶ月もハワイに滞在できたことを改めて嬉しく思う。

年を取るにつれて新しい事にチャレンジすることが難しくなると言われるが、好奇心と感謝の気持ちを忘れずに、また新たな旅に迎えるよう精進し続けたい。

今回の旅では、日本にいたら味わえないような極上な波を何日も体験し、サーフボードのテストも思う存分できた一ヵ月だった。

途中二度ほど激しい嵐に見舞われたが、MSRエリクサーのタフさを証明できた貴重な体験だった。

地元のローカル達に暖かく迎えてくれたことで、本物のAlohaスピリッツというものに少しだけ触れる事ができたような気がする。

波乗りをしに行って、波乗りの写真が残せない事がある意味、内省的な深い旅であった。

Profile

小森 隆志

宮崎出身 宮崎在住

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Dove wetsuits
MSR

ホームページ
Haniwaoutdoordesign.com

インスタグラム
@sora_surfboard


自己紹介
ハワイのビッグウェーブに魅了され、自身で削ったサーフボードが世界でどこまで通用するのかを探求。最近はビッグウェーブのみならず、Hydrofoilによって空飛ぶサーフボードの開発に熱中している。

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